じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

三番叟の世界

東京の国立小劇場では、公益財団法人文楽協会創立50周年記念、竹本義太夫300回忌記念の「5月文楽公演」が開催中です。

演目は、<第一部> 『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』(熊谷桜の段、熊谷陣屋の段)。近松門左衛門生誕360年記念『曾根崎心中(そねざきしんじゅう)』(生玉社前の段、天満屋の段、天神森の段)。<第二部>『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』。近松門左衛門生誕360年記念『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』(北新地河庄の段、天満紙屋内より大和屋の段、道行名残りの橋づくし)。
私はまだ拝見していませんが、人気の演目!今月も盛り上がっているようです。
弊財団では、伝統音楽の保存・振興・普及に努めることを目的とした顕彰事業、「日本伝統文化振興財団賞」(◆)を設立し、副賞として受賞者のDVDの制作をいたしておりますが、本年度は、豊竹呂勢大夫(とよたけ ろせたゆう)さんが受賞されました。豊竹呂勢大夫さんは、『一谷嫩軍記』熊谷陣屋の段にご出演されています!
ところで、今回上演されている『寿式三番叟』は、以前も過去ブログ(文楽「寿式三番叟」と「三番三」◆) でも取り上げておりますが、天下泰平・国土安穏の祈りを込めて上演される祝儀曲です。最近「石橋の世界」(石橋物)(◆)「道成寺の世界」(道成寺物)(◆)のブログを書きましたが、こちらもたくさんあります!「三番叟物」です。
義太夫節の《寿式三番叟》は、〜式という意味ではなくて、「ことぶき・しきさんばそう」と区切って読むそうです。《三番叟》は、《三番三》と表記する時もあり、いずれも「さんばそう」と読みます。「さんばんさん」だと思ってしまいますね…。
《寿式三番叟》も、『石橋』、『道成寺』同様、能の演目からきており、能の『翁』(=『式三番』)の後半部分で、狂言方が勤める舞です。父尉、翁、三番叟の三人の老体(神)による天下泰平・五穀豊穣を祈る儀式の舞の伝統は、三番目の舞を中心に、娯楽性の高い舞踊に変化していきます。長唄では、《雛鶴三番叟》(1755年初演)、《舌出し三番叟》(1812年復曲)、《操り三番叟》(1853年初演)、《二人三番叟》(1936年初演)。常磐津では、《子宝三番叟》(1787年初演)、そして義太夫節の《寿式三番叟》は、1712年に初世竹本義太夫が原型を作ったといわれ、明治期に二世豊沢団平が手を加えた曲ということです。
弊財団よりリリースされているCDをご紹介します。
「邦楽舞踊シリーズ[義太夫]二人三番叟(寿式三番叟)」(◆)

舞は、「揉の段」「鈴の段」に分かれています。曲中の三味線に現われるリズムは、八拍ごとのまとまりで、二拍子の裏拍を強調したリズムとなっていて、何度も繰り返されます。裏拍を強調するリズムは、日本の伝統音楽の中では、めずらしくないそうですが、1曲の中で何度も繰り返されるというのは、めずらしいようです。そういえば日本の音楽は、音階や音域が幅広いわけではないのに、同じ旋律が繰り返されるということは、ほとんど無いのですよね。
逆に、同じリズムを繰り返す音楽構成は、土俗的、民俗的エネルギーがあり、原点は五穀豊穣を祈る民俗舞踊であることを感じます。「鈴の段」では、鈴を振り種を撒くような所作があります。足拍子が多く、三番叟を舞うことを「踏む」ともいうそうです。こちらは動画、日本伝統文化振興財団賞歴代受賞者によるチャリティ公演「古典芸能の夕べ」より、能楽師狂言方大蔵流の山本泰太郎さんによる「三番三」動画(◆)です。
「邦楽舞踊シリーズ[常磐津]子宝三番叟」(◆)

「邦楽舞踊シリーズ[長唄]雛鶴三番叟/君が代松竹梅」(◆)

一つ知ると、世界がどんどん広がりますね。「石橋物」「道成寺物」「三番叟物」は、伝統文化にあまり接点のなかった方にもお薦めの、わかりやすい演目だと思います。是非伝統文化に触れるキッカケにしていただけたらと思います。
もう知ってるわ〜、という方には、本日のブログは『国立劇場上演資料集 第183回文楽公演』(発行:日本芸術文化振興会)を参照させていただきましたので、こちらをオススメいたします!各演目の今までの上演記録、解説、研究、芸談など、詳細な情報が得られます。

書き忘れていましたが、《石橋》の「♪獅子團乱旋の舞楽の砌」、《道成寺》の「♪鐘に恨みは数々ござる」に引き続き、《三番叟》でキターー!の詞章は、「♪とうとうたらりたらりら〜」でしょうか。是非、皆様もご注目下さい。

(制作担当:うなぎ)