じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

東京(近郊)のお盆は7月です。

随分前の話ですが、
「今月の13日からお盆なので3日ほど休みます。親戚の新盆もありますので・・・」
と、兄が会社に休暇届を出すと、
「えっ、お盆は来月でしょ?田舎はどちらですか?」
と言われたというこのエピソードは、我が家では有名な笑い話です。
両親とも東京出身で、それぞれ10人兄弟姉妹の9番目だったり、6番目だったりするものだから、亡くなった両親の代わりに親戚づきあいをする兄は、一時期大変だったようです。

今や「お盆休み」と言えば「8月の大型連休」と誰もが思っていると思いますが、東京や近郊のお盆は7月です。今年は、ちょうどいい具合に13日から三連休ですね。
母や親戚の伯母たちに、「お盆にはね、亡くなった人の魂が帰ってくるんだよ」と言われて育ったせいか、さして信心深い訳でもないのに、この季節、なんだか「魂」という言葉が心に響きます。

其の子らに
捕らえられんと
母の魂
螢となりて
夜に来たりけり            窪田空穂


かたつむりたましひ星にもらひけり   成瀬櫻桃子

句や歌の作者についての深い理解も詳しい解釈もよくはわかりませんが、自分なりに見える光景があって・・・・とても好きです。
上掲の短歌。幼子の周りをこうしてまとわりつくようにやってくる螢は、子等に寄せる思いを残したまま逝った妻の「魂」だと感じながら、静かに暗闇を見つめている歌人の「魂」の寂寥感。

上掲の句。星にもらったという「たましひ」は、神秘的な輝きを放つ生命(いのち)そのもの。儚(はかな)げでありながら、秘めたる意志の強さを感じる「生」たる「たましひ」。暗闇の中の一筋の光に浮かび上がるこの透明感は、聖なるものの象徴。あまりにもささやかで壊れてしまいそうでいながら、ひたむきに生きようとする小さきものの象徴を、かたつむりが一身に背負っているようにも思えます。

 目に見えないものに思いを寄せる、そこに意味を見いだすという感性、これはまさに人間性と言いますか、精神性そのもののようにも思います。大切にしていきたい文化でもあります。

(やちゃ坊)