じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

落語の世界は深い!part7

昨日のJさんのブログは、世界文化遺産である宮島・厳島神社に関する非常に興味ある内容。私も何度か訪れたことがあり、潮が満ちてくると海に浮かんでいる様な朱塗りの社殿は本当に厳かで、美しいたたずまいですよね。そして、ブログに掲載されている「大鳥居」の風景は、何度見ても心奪われるものがあります。宮島は秋の紅葉も見事ですし、穴子丼も食べたいし、牡蠣も食べたいけど(昨年末に牡蠣なべを食した後に大変な事態に陥ってしまったので、やっぱりやめときます。。。)とにかくまた行きたくなってしまいました。というわけで、今回のブログの話題は、落語に出て来る「旅」の噺。以前のブログでも一度記したテーマですが、今回はその他の噺を紹介します。
旅のスタイルは数々ありますが、伊勢参りのついでに、京や大阪見物に出かける。また、旅というよりは町内で講中を組織して、大山や富士山へ参詣する、信仰に加えて親睦小旅行は年中行事として行われていた模様です。
大山は現在の神奈川県伊勢原市秦野市厚木市境にある霊山。単なる信仰というわけではなく、親睦や遊山を兼ねた数日の小旅行は、江戸っ子たちの楽しみでもあった、とのこと。そこでおススメは、六代目三遊亭圓生師匠の「大山詣り」。
◆ ビクター落語 六代目 三遊亭圓生(12) 大山詣り/福禄寿
夏場になると、多くの落語家が高座にかけている噺です。圓生の師匠である四代目橘家圓蔵が得意にしていたそうで、それを何度も聴いていた圓生は、自然に耳に入ってしまったということです。
とある長屋で大山詣りに行くことになったのですが、今年のお山には罰則があって、怒ったら罰金、けんかをすると丸坊主にする、というもの。これは、熊五郎が毎年酒に酔っては喧嘩沙汰を繰り返すのに閉口したための案。しかし熊さん、俺は大丈夫だと大山詣りに参加することに。
無事お詣りが済んで、明日には江戸に帰るという晩、気が緩んだのかやっぱり喧嘩。それで熊さんは約束通り坊主にされてしまう。翌朝熊さんが起きてみると既に皆は発った後。宿の人に笑われて本当に坊主にされたことに気付きます。
やられた熊さん、一計を案じ、一足先に江戸に戻って、そこからひと騒動を起こします。。。
大山は別名を「阿夫利(あふり)山」、「雨降(あふ)り山」ともいいます。大山および阿夫利神社は、古くから雨乞いの神とされていましたが、江戸時代中期から勝負の神様、旱魃(かんばつ)の神様とされたので、町人が講を仕立てて盛んに参詣をしたそうです。
幅広いレパートリーときめの細かい芸。そして三遊派本来の本格的な芸の継承者と謳われた六代目三遊亭圓生の「大山詣り」。背景や人物を的確に表現する点において、また緻密さではやはりピカイチであった圓生師匠の一席をぜひ聴いてみて下さい。
続いての噺は、旅先で災難にあってしまう「鰍澤(かじかざわ)」。これは八代目林家正蔵師匠の一席がおススメ。
◆〈COLEZO!TWIN〉八代目 林家正蔵 セレクト (2枚組)
父親の骨を納めるため江戸から身延山を訪れた新助。参詣の道中で大雪に見舞われ、道に迷ってしまう。日が暮れてきて、やっとの思いで探し当てた一軒のあばら家。しかし、そこの女主人に毒を盛られ、あわや殺されかかる、という一席。
青年時代の圓朝が三題噺として創作した作品で、幕末の不穏な世相の中で江戸の文人や芸人は、三題噺の会などを催して伝来の遊びの精神を楽しんでいた、とのこと。この噺を創ったとき与えられたのは「小室山の護符」「玉子酒」「熊の膏薬」という難しい三題であったが、いずれも噺の中に立派に生かされているところに、若き日の圓朝の創意を見出すことができる、というわけです。
八代目正蔵は、落とし噺ばかりではなく、人情噺、道具を使った怪談噺や芝居噺もやるし、そればかりか有名作家の作った文芸物と言われるネタも多い。爆笑物は少ないが、むやみに笑わせるよりも味のある噺を好んだので、芸の分かる人たちに支持されていたのです。落語の王道を行く正蔵師匠の一席をぜひお楽しみ下さい。
最後になりますが、暑い日が続く今日この頃、外を歩けば熱中症の心配が。そんなときこそ、クーラーの効いた演芸場に入って思いっきり笑って。。。この夏一番のおススメの過ごし方!? というわけで、本日のブログはここまで。

(よっしゃん)