じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

落語の世界は深い!part8

私の好きなTV番組のひとつに、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組があります。
番組に登場するのは、誰もが認める、その道のプロ。斬新な試みに挑戦し、新しい時代を切り開こうという挑戦者であり、数々の修羅場をくぐり、自分の仕事と生き方に確固とした「流儀」を持っている仕事人たちを紹介している、非常に興味深い番組です。どんな試行錯誤を経て、成功をつかんだのか。そして、混沌とした今の時代をどのように見つめ、次に進んでいこうとしているのか。普段はカメラの入れない仕事の現場に徹底密着し、現在進行形で時代と格闘しているプロの「仕事」に迫っています。様々なジャンルのプロフェッショナルを紹介しており、「へぇ〜そうなんだ」「素晴らしいなぁ〜」と毎回感心しながら番組を観ている私です。
いつの時代にも「職人」と言われる人たちはいて、周りから一目置かれる存在なんですね。というわけで、今回のブログのテーマは「落語に登場する職人」について。
落語には職人がたくさん出てきます。外に出て仕事をする出職(でしょく)には、大工、植木屋、左官、とび職などがいて、自宅の仕事場で仕事をする居職(いじょく)には、鍛冶屋、指物師、染物屋などがいます。落語の世界では、たいていは江戸っ子で威勢が良く、ポンポンと飛び出す歯切れのいい啖呵が聞きどころ。腕さえあれば、お天道さまと米の飯はついてくる。怖いものはなし。だから宵越しの金は持たない。それが江戸っ子、職人の心意気。ところが、中には間抜けな男も出てくるから、落語のネタになるわけです。
そんな人間を描いているのが、五代目春風亭柳朝の「粗忽の釘」。
 ◆ ビクター落語 五代目 春風亭柳朝(2) 粗忽の釘/品川心中/やかん
「大工」であるが、とんでもない粗忽者の亭主が長屋に引っ越して来た。掃除をしたあと、箒を掛けるために釘を打ってくれと女房に頼まれ、大工が専門だから大丈夫だと安心していたら、瓦釘という長い釘を壁に打ち込んでしまった。壁を通して隣家の箪笥を傷つけたかもしれないと、隣に謝って来いと女房に指示されて謝りに。しかし、行った先は、隣りではなく、向かいの家!? こんな男が引っ越してきたものだから、長屋は大騒ぎ。。。
粗忽者を主人公にした落語は数多くあり、「粗忽長屋」「粗忽の使者」「堀の内」「松曳き」などなど。でも、その粗忽ぶりは、少しずつ違いがあります。慌て者、早合点、聞き違い、忘れっぽい、など。中には、粗忽とは少し違うのではないかと思われるものもありますが、「粗忽の釘」の噺の主人公は、本当に粗忽らしい粗忽者です。
続いての「職人」は、六代目三遊亭圓生の「左甚五郎“三井の大黒”」。
◆ ビクター落語 六代目 三遊亭圓生(15) 寝床/左甚五郎(三井の大黒)
飛騨の名工・左甚五郎を主人公とした噺。「ぬうっとして、ぽうっとしている」というので左甚五郎の呼び名は、「ぬうぽう」。しかし、大そう皮肉屋で、口が悪い。まわりに対してもたいへんに厳しい甚五郎。ふとしたことから、江戸の大工の棟梁・政五郎の居候となる。口が悪いので、政五郎夫婦は面食らうが、当人は平気な顔。出身地が飛騨の高山だと聞いて、神様か名人かと言われる甚五郎先生のところだ。ところでお前は誰だと聞かれて、自分が甚五郎だとは言いづらくなり・・・といった流れの噺。
圓生は、左甚五郎という人物の描き方が難しい、と言っていました。与太郎になってしまってはいけない、一芸に秀でてはいるが、他のことにはまるで疎く、ボーッとしているように見える人物にしなければいけない、というわけです。
以上、「落語の世界の職人」の噺を紹介致しましたが、プロフェッショナルとはほど遠いけど、魅力溢れる、愛すべき人間が数多く登場するのが落語の世界。冒頭に記したTV番組の「プロフェッショナル」と私の共通点を探すのは大変ですが、江戸っ子職人とは相通じる部分がありました。「江戸っ子は、腹の中も奇麗だが、財布の中身も実に奇麗」。そうです! 私の財布の中身も負けず劣らず、いっつも奇麗なままです。。。というわけで、今回のブログはここまで。

(よっしゃん)