じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

ファルスタッフ(ヴェルディ)/フォールスタッフ(シェイクスピア)

先月来日したミラノ・スカラ座の2013年日本公演 <ヴェルディ生誕200年祭> 、ご覧になった方も多いと思います。1975年生まれのイギリス人ダニエル・ハーディングが指揮したのはヴェルディ最後のオペラ「ファルスタッフ1893年スカラ座で初演された喜劇です。
http://scala2013.jp/falstaff.html
318号-2013年8月:NBSニュース:NBS日本舞台芸術振興会

ジュゼッペ・ヴェルディ(1813 - 1901)は二作しか喜劇を作品化していないのですが、ヨハン・シュトラウス2世が1874年に作曲したオペレッタ「こうもり」を思い出すような、観劇のあとすっきりと楽しい気分で良かった〜!と思える作品でした。その爽快感には締めくくりに置かれた傑作フーガ「世の中すべて冗談」と、それを魅力的に視覚化した今回の演出が大きく寄与しているはず(演出家はロバート・カーセン)。ちなみにヴェルディはこの曲から作曲を始めたそうです。

台本は前作「オテロ」と同じアッリーゴ・ボーイト(イタリア語による)、原作はこれも「オテロ」同様、ウィリアム・シェイクスピア(1564 - 1616)。戯曲「ウィンザーの陽気な女房たち」と「ヘンリー四世 第一部 第二部」から、ストーリーは前者をもとに、人物造形は後者をもとにしています。

1985〜1986年に白水社から発行された小田島雄志シェイクスピア全集から、(ファルスタッフのもととなった)騎士ジョン・フォールスタッフが登場する「ヘンリー四世」の解説によりますと、すでに17世紀には、シェイクスピア作品の全登場人物のなかで、フォールスタッフはもっとも有名な人物としての地位を確立していたとのこと。騎士という身分でありながら、弁が立つウソつきで相当なお調子者ですが、英国人そしてヨーロッパ知識人層においてはかなりの名物キャラクターであるのですね。エドモン・ロスタン作の英雄喜劇「シラノ・ド・ベルジュラック」のシラノとは対照的な人物に思われます。
ウィンザーの陽気な女房たち」の方は、諸説ありますが、1597年(1600〜1601年説もあり)にエリザベス女王が二週間でシェイクスピアに書かせた、唯一の現代劇。彼の作品中、もっとも散文率が高い作品だそうです。さしものシェイクスピアにも韻文に直す時間が無かったと推測されています。
<参考文献>

作曲家◎人と作品シリーズ「ヴェルディ」小畑恒夫・著(音楽の友社)→生涯篇・作品篇・資料篇と分かれて、わかりやすくヴェルディについて概観できます。
シェイクスピア全集(全五巻)小田島雄志・訳(白水社)→「台詞の新鮮さで一時代を画した」とのキャッチがあります。「ヘンリー四世」は第二巻、「ウィンザーの陽気な女房たち」は第三巻に収められています。
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(J)