じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

自然のチカラ

皆様はお正月にお節料理を召し上がったでしょうか?

お節と言えば、塗のお重箱。私の家でもちょっと前までは横着せずに、黒塗り・蒔絵のお重を何段にも重ねてたっぷり3日以上食べたものです。でも最近、作る種類も減ってお重もだんだん出さなくなりました。それではちょっとさびしいですね。今年は徐々に復活させたいと思います!

さて、年末になると買い出しにデパートやら上野やらに行くわけですが、私も新宿の高島屋に行ってみました。そこに、毎年のように伝統工芸の職人さんがいらして実演されております。この日はその様子を拝見しておりますと、職人さん自ら漆器についてお話してくださいました。


秋田県湯沢市川連町川連漆器ホームページより)

その方は、秋田県湯沢市川連町発祥の川連漆器(かわつら・しっき)の職人さんでした。近頃はプラスチックにウレタン塗装をするものが多く出回っています。そして、天然漆を使っていても工場で吹き付ける形が安く仕上がるのだとか。でもその職人の方は、一つ一つ手で漆を塗っていらっしゃいました。手で丁寧に塗ることで、角といった漆のはがれやすい箇所に配慮でき、より長持ちする品物になるそうです。漆は赤と黒と思いきや、漆に顔料を混ぜて様々な色を作り出し、筆で器の表面にどうぶつの顔をイラスト書きしたり・・・!おもしろいこと。大人だけでなく、こどもも喜んで使える工夫をしているのですね。


何気なく値段と見栄えのバランスで買う習慣がついている私ですが、職人の方とお話をする内に、漆にひそむ昔の知恵に驚きました。まず感心したのが、漆の抗菌作用。抗菌仕様の食器をよく目にしますが、漆は工業的な加工をせずともナチュラルに抗菌素材だそうです。実際に実験がなされた所、大腸菌は4時間後に半減、24時間後にゼロに。こうした効能が経験的に知られていたからこそ、何日も食べ続けるお節料理の入れ物として、古くから漆器は重宝されてきたのですね。

もう一つおもしろいなと思ったのは、漆器に描かれたモチーフです。高島屋におかれていた漆製品の一つに、可愛らしいトンボをあしらったお箸がありました。職人の方曰く、これは「勝つ」アイテムだとの事。そのわけは、トンボは後退できない、前進のみだから。勇猛果敢で勝負強いという意味から、勝虫(かちむし)とも呼ばれ昔から縁起の良い虫とされ、武具の兜などに使われました。そろそろ受験シーズン。武将もあやかったトンボの力に力を貸していただくのも心強いかもしれません。さすが伝統工芸品です、モチーフ一つにも、ひも解けば歴史や意味が見えてくるのが楽しいものです。


漆器の優秀なその性能を知らないから、漆器より工業製品の方が安い、と思ってしまいがちです。しかし、工業製品としての塗食器には安さとともに、環境ホルモンを体内に取り入れてしまうかもというリスクも。そうしたことをすべて考え合わせると、お高いのはどちらか?物の本当の価値について考えるさせられます。

(弘)