じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

国産絹箏弦を聴く会

「国産絹箏弦(きぬそうげん)を聴く会」に行ってきました(2014年1月18日(土)14時半開演 紀尾井小ホール)。

お箏の弦は、かつては絹製でしたが、現在はほとんどがテトロンなどの化学繊維になっています。昔はお座敷で弾いていたのが、ホールなどで演奏される時代になり、音量の大きさが求められるようになって、弦の張りが強くなったことが一因といわれています。
絹糸は本番で切れたり、たびたびの張り替えが必要なため、敬遠されるようになった一方で、化学繊維の弦の改良が進んだということもあるようです。絹の音色にこだわってきた演奏家の方もいますが、今では絹の弦を作ること自体難しくなってしまったそうです。
この演奏会を主催した「国産絹箏弦普及の会」は、絹糸の音色を追求し、切れにくく音色の優れた箏弦を国産の蚕から作るにはどうしたらよいかと、5年にわたって研究を重ねてきました。
養蚕は、現在ではほとんど人工飼料を使っているそうですが、普及の会の徳丸吉彦先生は、昔ながらの桑の葉だけで育てた蚕からとった絹糸と比較したいと考え、皇后陛下にお話したところ、皇居内で手ずから育てられた貴重な繭を、この試みのために二種類くださったのだそうです。
皇室の伝統文化の一つであるご養蚕については、宮内庁のサイトのこちらのページ(→三の丸尚蔵館 )に詳しく出ています。
そうして繭の種類や糸作りの手法による弦の違いを比較し、強度、音色、弾き心地などさまざまな実験を重ねた成果が、この「国産絹箏弦を聴く会」です。プログラムの「ごあいさつ」につぎのように記されています。

こうした多くの方々のご協力によって、演奏中に切断することなく、響きがよく、また、手や肩に負担の少ない箏弦を、国産の繭から作ることが可能であることが分かってきました。国産の繭を使うことは、日本の蚕糸業を活性化するためにも重要なことです。
(中略)
この演奏会が、絹弦から生まれる音色が古典的な箏曲にとって重要であることを再認識して頂く機会になれば幸いです。

この日は白繭種という蚕からとった絹箏弦を使用していました。昨年6月に繭が下賜され、秋にできあがった糸とのことです。演奏は、生田流箏曲人間国宝、米川文子さんと米川敏子さん、尺八の志村禅保さんです。

プログラム

解説:徳丸吉彦

1.乱れ 八橋検校作曲
 箏:米川敏子

2.秋の言の葉 西山徳茂一 作曲
 箏替手:米川文子 尺八:志村禅保

3.夕顔  菊岡検校 作曲、八重崎検校手付、初代酒井竹保尺八整譜
 三弦:米川文子 箏:米川敏子 尺八:志村禅保

楽器調整:山中正夫(光春野村楽器店)
絹箏弦製作:宮元弘幸(糸幸商店)、橋本英宗(丸三ハシモト)

演奏が始まると、みな息をこらして耳を澄ましていました。余韻がとてもよく響き、「引き色」や「後押し」など左手による音の変化がくっきりと聞こえてきました。音色はぴーんと張り詰めたような、大きいというより強いという印象でしょうか。
演奏後に米川敏子さんは、さすがにいいものを食べて育った繭は、糸がつやつやぴかぴかしていて力強い、と感想を述べていました。
合奏した尺八も、絹の音に合わせるために江戸時代と明治時代に作られた古管尺八でした。浜松市楽器博物館所蔵の楽器を特別に借りて実現したとのこと。三曲合奏が生まれた時代はこんな風だったのかと想像しながら、最後まで音色に聞き入りました。
当日たまたまお会いした方から、絹糸は弾いたときの感触がなんともいえず心地よく、テトロンとはぜんぜん違うと伺いました。終演後、箏曲を勉強する学生さんたちが、実際に絹箏弦を体験する機会も設けられていました。どんな感想をもったのか、聞いてみたいものです。

(Y)