今春、「洋楽渡来考再論 箏とキリシタンとの出会い」が日本キリスト教団出版局から刊行されます。
【DVDタイトル映像】
この書籍は「再論」とタイトルされているように、16世紀に宣教師が日本を訪れ、キリスト教布教を行った時代に西欧の音楽=洋楽が日本に渡来した、という事実を詳細に検証した前作「洋楽渡来考」に続く、皆川達夫先生の最新刊です。
「ザンギリアタマを叩いてみれば、文明開化の音がする」とオッペケペ節に歌われたように、維新以後、明治新政府の主導で官民一体?となって西洋文化導入に励んだ時代に「洋楽」が我が国に渡来・・と、ともすれば考えられがちですが、実際にはキリシタン禁教の江戸時代以前にキリスト教とともにグレゴリオ聖歌などの音楽が伝わっていたという事実が、長崎の島々に口承のみで伝わる「オラショ」や、1582年(天正10年)にキリシタン大名大友宗麟の名代としてローマへ派遣された天正遣欧少年使節団の4名の少年等の紹介、また、禁教時代にすべて破棄されてきた中かろうじて現代まで残った書物によって、前作「洋楽渡来考」では論証されています。
新作「洋楽渡来考再論」は、ここ数年大きな話題となっている「《六段》の原曲はグレゴリオ聖歌《クレド》」という皆川先生の大胆かつ歴史のロマンあふれる試論をより詳細に取り上げたものです。
当財団からは、すでにCDアルバム「箏曲『六段』とグレゴリオ聖歌『クレド』」(監修・解説・指揮:皆川達夫)→★を刊行しています。
そして新刊「洋楽渡来考再論」には、平成24年度東京都芸術文化発信事業助成による「箏曲《六段》とグレゴリオ聖歌《クレド》イタリア公演2012」(主催:公益財団法人日本伝統文化振興財団)で記録した映像をDVD付録として制作しました。
このDVDには、《六段》と《クレド》の関連性をローマのオラツィオ・デル・カラヴィータ礼拝堂で紹介したコンサートと、ローマ最古の教会のひとつサンタ・プラッセーデ教会での演奏が収録されています。
【サンタ・プラッセーデ教会】
演目と出演者は次の通りです。
1. グレゴリオ聖歌《クレド 第一番》合唱:中世音楽合唱団 指揮:皆川達夫
2. 箏曲《六段》箏:野坂操壽
3.《六段》とグレゴリオ聖歌《クレド 第一番》箏:野坂操壽 合唱:中世音楽合唱団 指揮:皆川達夫
【《六段》と《クレド 第一番》演奏風景】
4.《六段》とグレゴリオ聖歌《クレド 第三番》(初段・二段) 合唱:中世音楽合唱団 指揮:皆川達夫
5.《六段》とグレゴリオ聖歌《クレド 第四番》(初段・二段) 合唱:中世音楽合唱団 指揮:皆川達夫
6. 箏曲《乱》箏:野坂操壽
7. 箏組歌《四季の曲》(序、秋、冬)歌・箏:野坂惠璃
8. 箏曲《五段砧》箏(替手):野坂操壽 箏(本手)野坂惠璃
【《五段砧》演奏風景】
9. F.ゲレーロ《救い主を育てた御母》 合唱:中世音楽合唱団 指揮:皆川達夫
【収録日:会場】
1〜8:オラツィオ・デル・カラヴィータ礼拝堂(ローマ)2012年7月4日
Oratio del Caravita
9:サンタ・プラッセーデ教会(ローマ)2012年7月3日
Santa Prassede
「六段」は箏曲の歴史上極めて異質な作品です。「段物(だんもの)」と総称される「六段」を含む数曲だけが、何故か歌を伴わない純器楽曲として現代まで継承されています。この「段物」の原曲であり各章の拍数も同じ「すががき」と呼ばれる曲種と宣教師の渡来時期の符合。クレド前唱と「アーメン」に相応する「六段」前弾と後奏。当時の音楽家である検校を庇護したキリシタン大名の存在。
洋楽の渡来と日本の古典音楽の新たな視点を検証する話題の一冊として広くお勧めいたします。
(理事長 藤本)