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公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

河東節と長唄

先日伺った「河東節(かとうぶし)を知る会」で、「河東節と長唄」という興味深い対談がありました。一般財団法人古曲会が主催して定期的に開かれている「古曲を知る」シリーズの第44回です(2014年2月10日 紀尾井小ホール)。
平成15年度から始まったこのシリーズで演奏された河東節、一中節、宮薗節、荻江節の代表的な曲(平成21年度まで)は、「古曲の今」(2006年発売 CD12枚組)「古曲の今 第二集」(2010年発売CD10枚組)に収められています。古曲研究の第一人者である竹内道敬先生の曲目解説、全曲の詞章などを収めた充実の別冊解説書がついています。(写真は「古曲の今 第二集」)

古曲を知る会」では、毎回曲の間に竹内先生の解説が入るのですが、今回は「河東節と長唄」という対談がありました。河東節を演奏する十寸見東裕(ますみ とうゆう)さん、山彦青波(やまびこ せいは)さんのお話を竹内先生が聞くという形です。
このお二人、実は長唄演奏家で、十寸見東裕さんは長唄唄方の松永忠次郎さん、山彦青波さんは三味線方の松永忠一郎さんです。ちなみにお二人は顔立ちもよく似た兄弟ですが、なぜか忠次郎さんのほうがお兄さん、忠一郎さんが弟さんという、ちょっとややこしいお名前です。
お二人が河東節を始めたきっかけは、まず忠次郎さんが長唄の勉強になると考えて山彦節子さん(人間国宝)に入門したことだそうです。それに付き合って、後から忠一郎さんもお稽古に通うことになりました。
お話とともに、河東節と長唄の違いを聞かせてもらいました。
三味線はどちらも細棹で、楽器自体はほぼ一緒とのこと。ところがバチの大きさが違います。河東節のバチは大きく、薄くてしなりがあります。それに比べて長唄のバチは小さく、厚みがあります。実際に両方を弾いてみてくれました。河東節のほうは柔らかくて澄んだ延びのある響きです。一方、長唄のほうは強く派手な音色です。長唄が歌舞伎とともに劇場音楽として発達したということと関係があるのでしょう。バチが小さいのも、長唄の細かい手を弾くのに向いているとのこと。
河東節の三味線は、大きな掛け声と左手のハジキが目立つのも特徴です。ハジキは指をたててはっきりと音を出さなければならないと教わったそうで、これも長唄とは違います。忠一郎さんによれば、このようなバチや演奏法の違いは、表現したい音楽が違うからではないか、とのことでした。
長唄には河東節の影響があり、「河東がかり」という節がたくさん入っているそうですが、歌い方も、河東節と長唄では違うとのこと。そもそも、長唄では唄方といいますが、河東節では浄瑠璃方というとおり、こちらは「語り」です。長唄のようにのばして歌うことはせず、節尻を短めに切ってしまうのが特徴です。忠次郎さんは、初めはどうしても長唄風になってしまい、厳しく注意されたと話していました。
河東節は享和2年(1717年)に十寸見河東(ますみ かとう)が旗揚げした浄瑠璃で、約300年、古い形をほぼそのまま伝えてきました。忠次郎さんは、300年もの間愛されてきた河東節を将来にもつなげていきたいと語っていました。

プログラム

1.禿万歳
浄瑠璃:山彦音枝子、山彦敦子、山彦聡子、山彦みき/三味線:山彦千子、山彦奈加、山彦季代乃、山彦香里

2.濡扇
浄瑠璃:山彦ちか子、山彦幸代/三味線:山彦佳子、山彦朋子

対談「河東節と長唄
十寸見東裕、山彦青波、竹内道敬

3.七草
浄瑠璃:十寸見東裕/三味線:山彦青波/上調子:山彦登

お二人が演奏した「七草」は、絵師で趣味人でもあった酒井抱一の作詞とのことで、粋ななかにも格調高く、河東節らしい三味線もたっぷり聴けました。
松永忠次郎さんは第12回日本伝統文化振興財団賞の受賞者で、2011年には当財団で主催した東日本大震災チャリティ公演「古典芸能の夕べ」にもご出演いただきました。
また、三味線方の松永忠一郎さんは、古典はもとより現代作品にも取り組み、ご自身も作曲をされます。松永忠次郎さんの財団賞受賞制作DVDにタテ三味線で参加していますが、第16回受賞者の清元栄吉さんのDVDでは栄吉さん作曲の「etude(エチュード)」 で超絶技巧を披露しています。
ちなみに「七草」で三味線の上調子を弾いた山彦登さんは、山田流箏曲山登松和さんの河東節の芸名で、やはり第5回財団賞受賞者です。
長唄や山田流箏曲にさまざまな影響を与えた江戸の浄瑠璃「河東節」は、現在、その演奏家の皆さんにも大事に受け継がれていることがわかりました。

(Y)

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