じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

三津五郎丈復帰の四月大歌舞伎

新しい歌舞伎座が開場してちょうど一年。その記念公演でもある鳳凰祭四月大歌舞伎で、待ちに待った坂東三津五郎さん復帰の舞台を拝見してきました。

「昼の部」の舞踊「壽靱猿(ことぶきうつぼざる)」です。幕が開くと舞台には女大名、美芳野と奴の橘平。そこに小猿が紛れ込み、それを追って三津五郎さん演じる猿曳寿大夫の登場となります。
花道に現れると、場内は割れんばかりの拍手。花道の出からあんなに大きな拍手というのは聞いたことがありません。病気療養からの復帰を祈るような気持ちで待ち望んでいた私も、気がつけば手が痛くなるほど拍手を送っていました。

中村勘三郎さん、市川團十郎さんが思いがけなくも早く世を去り、がっかりしていたところにとびこんできた三津五郎さん病気休演との報せは、歌舞伎ファンにとって悲鳴をあげたくなるようなできごとでした。歌舞伎の将来はどうなってしまうのだろう!?とまで考えずにはいられませんでした。その三津五郎さんが、病気を克服して7か月ぶりに歌舞伎座に帰ってきたのです。
「壽靱猿」では、変わりなく切れのいい洒脱な踊りを見せてくれました。とてもていねいに踊っている印象で、それが舞台に立つことを愛おしんでいるようにも見えました。かわいい小猿の命を惜しむところなど、心にしみる場面もありました。
共演した同世代の中村又五郎さん、子息の巳之助さんとも意気がぴったり合い、またお話の結末もめでたく、見ていて本当に晴れやかな気分になりました。

昼の部にはもう一つ、注目すべき演目がありました。坂田藤十郎さん一世一代の「曾根崎心中」です。昭和28年8月の「曽根崎心中」(宇野信夫脚色演出)復活初演以来、1300回以上も演じているという藤十郎さんの当たり役「お初」の、これが見納めということです。
舞台に現れた途端にそこがパーッと華やぎ、80歳をすぎているとはとても信じられません。天満屋での有名な決意のシーンから心中の道行まで、すっかり上方歌舞伎の世界にひたりました。

幕開きの舞踊「壽春鳳凰祭(いわうはるこびきのにぎわい)」では、中村時蔵さんの子息の梅枝さん、萬太郎さんなど、若い役者も活躍していました。
三津五郎さんの次の出演予定は八月の納涼歌舞伎とのこと。しばらく間があくのはファンとしては少しさびしいですが、ゆっくり療養して、後に続く若い人たちのためにも、末永く歌舞伎の将来を先導していただきたいと願います。

(Y)