じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

村治佳織 SACD コレクションI

村治佳織ビクターエンタテインメント時代のアルバムが初めてSACDとして5月21日に発売されます。しかも、ボックスセット4枚組です。是非、ご期待ください。今回は、4枚組の中から「エスプレッシーヴォ」のライナーノーツをご紹介いたします。


エスプレッシーヴォ
〈 録音:1993年5月 発売:10月21日 〉
 CDの選曲は、彼女が子供の時から何度も小さなコンサートでお客様に聴いて頂き、好評を得ていた多くのレパートリーの中から、デビューにふさわしいものを慎重に選びました。その上で更に、録音前の厳しいスケジュールの中、あえて3月に本格的なデビューリサイタル「ヴィーナスの誕生」を千駄ヶ谷の津田ホールで強行しました。実は、演奏の質を高め、また、録音に自信を持って臨めるようにするためには何度も聴衆と向き合い、聴衆の反応を見ながら演奏を熟成させてゆくのがベスト、と考えたからです。この直前コンサートは大成功でした。既に、ギターの世界での彼女の存在は大きく満席のお客さんを前に、まさに狙い通りの結果を出せたように思います。このようにして、当初の2年の計画を1年弱でクリアして迎えた録音当日、15歳になったばかりの初々しい少女の、しかし、自信に満ちた最初の一音が秩父ミューズパーク・ホールに響きました。コンサートホールを独り占めするという、考えもしなかった贅沢な環境を前にして喜びに満ちた彼女の演奏は、今迄のどれよりもさらにスケールアップし、レコーディングのモニター・スピーカーに届く、その清々しく、しかも力強い音は、ギターの歴史に一石を投じるCD誕生の瞬間に居合わせたと感じる、私たちスタッフを狂喜させました。
 また、レコーディングには福田進一氏と彼女のお父様も立ち会い、強力なサポートのもとに順調に進みました。そして、CD発売日も彼女の中学生生活に支障がないよう慎重に日程を選び、10月に設定しましたが、その間にも幸運なハプニングがありました。それは、彼女のいわばオーディションをした、前記の公館で行われた彼女の演奏会に、当時近くに仕事場をお持ちであった作家の井上ひさしさんが、ふらりと、下駄ばきのラフな格好で来られたのです。佳織さんの演奏に大満足している様子を見てとった私は、「もし彼女がCDデビューする事があれば、その時には何か文章を書いて頂けないでしょうか?」とお願いしました。それがCDにある「わたしたちはいま、美しい宝石を得た」です。まだ、中学生である彼女の外部への発信には、当然ながら最大限の注意を払いました。
しかし、外部だけではなく、実は社内でもごくわずかのスタッフを除くと、発売直前まで、彼女の情報は最小限に留めていました。それは、年齢や容姿など安易に注目される要素から彼女を隔離しておきたかったからです。最初のプロモーション資料は「素晴らしい音楽家の誕生です !」と書いた彼女の音楽を入れたカセット・テープだけでした。何故ならば、彼女が中学生であること、しかも容姿端麗であることに単純に興味が集まることを危惧したからです。また、発売後の新聞雑誌などの媒体におけるプローモーションでも同じで、CDブックレット内のプロフィールも含め年齢は出さないように注意しました。この年の秋、最初のTV出演である、NHK「ミッドナイトジャーナル」でも、インタビューでは年齢に触れないよう頼み、彼女を紹介するテロップにでる生年も、通常よりも早いスピードで流してもらいました。レコード会社としては本来考えられないことですが、取材も極力断りました。ともあれ、デビューCDは音楽誌、新聞評で絶賛され、CD売り上げもギターのジャンルとしては破格でした。
(野島友雄) 

(Yuji)

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