じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

レスピーギ:交響詩「ローマの松」「ローマの噴水」「ローマの祭り」/アルトゥーロ・トスカニーニ(指揮)NBC交響楽団

2007年にXRCD24で発売されたRCAトスカニーニ・オリジナル・エディションは8年たった今でも好評のロングセラー商品です。このシリーズが発売された経緯をプロデューサーであり、マスタリング・エンジニアである杉本一家氏のコメントを引用してご紹介したいと思います。是非、皆様も一度お聴きいただければと思います。

「XRCD24 RCAトスカニーニ・オリジナル・エディション」の発売にあたって

トスカニーニの録音をXRCD24化するにあたっては、まずXRCD24の大原則である真正のオリジナル・マスターテープを使用するという点にこだわりました。トスカニーニの録音は、LP時代に何度も再発売される過程で、コピーやマスタリングが繰り返され、オリジナル・マスターテープの音とはずいぶんかけ離れたものになってしまいました。B.H.ハギンの名著「トスカニーニとの対話」で明らかにされているように、RCAは同一のカタログ番号であっても、再プレスする際にマスタリングし直して発売することが多々ありました。ハギンはそうしたマスタリングを「enhancement(エンハンスメント=強化、強調)」と称しておりますが、それはエコー・チェンバーを用いて人工的なエコーを加えたり、特定の音声帯域を持ち上げて強調することで、「より聴きやすくする」のが目的であったと思われますが、冷静に結果としてみるといたずらに刺激的な音に変貌しただけでした。特にLP時代のトスカニーニサウンドのイメージであるヴァイオリンなどの高音域や金管が異様なほど強調された「硬い・きつい・きたない」の「3Kサウンド」は、この人工的操作によって生み出されたものといえるでしょう。これがよい意味でも悪い意味でも、トスカニーニサウンドを規定してしまったのです。このイメージを打破したのが、当時のBMGクラシックが故ジョン・ファイファーの監修で1992年に完成させたCD82枚組の全集でした。この時のCD化によって、トスカニーニの録音の大部分が、人工的な操作のされていないオリジナル・マスターテープから真正のモノラルで復刻されたのです。LP時代の刺激的なトスカニーニサウンドに慣れていた耳には大人しく響いたかもしれませんが、それこそがオリジナル・マスターテープに刻みこまれたサウンド・イメージであり、よく聴くと非常にバランスの取れた、緻密な音作りがなされていることがよくわかります。LP時代には妙なバランスでマスタリングされていたがゆえに聴き取ることが出来なかったディテールまでがクリアになり、トスカニーニが作り上げた演奏のイメージが明確に届くようになったのです。今回のトスカニーニのXRCD24化は、この成果の上に立つものです。ペンシルヴァニアの山中にあるBMGのテープ・アーカイヴに保管されてるトスカニーニのオリジナル・マスターテープは、76cm/secで記録されており、情報量の多さ、密度の濃さ、SNの良さ、ダイナミック・レンジの広さは驚くべきものです(これまでの経験では、巷でささやかれているような転写や音質劣化などの「アナログ・テープの経年変化」は、保存状態が万全である限り、皆無といえましょう)。XRCD24化にあたってのわれわれの仕事は、それをそのままそっくりCDというパッケージに移し変えることでした。同一番号で複数残されている場合もあるマスターテープの選定に際しては、ニューヨークのソニー・スタジオのアンドレアス・マイヤー氏(彼は日本で発売されているグレン・グールド紙ジャケット・シリーズのリマスタリングも手掛けている優れたプロデューサー/エンジニアです)と、ソニー・スタジオのテープ・アーカイヴのスタッフの知識と経験に大いに助けられました。オリジナル・マスターテープの再生に当たっては、乾燥のせいで離れてしまう編集箇所のスプライスを一つ一つつなぎ直し、今となっては希少なモノラル・ヘッドを使用して適正な位相でプレイバックしています。よく見過ごされがちなこの基本中の基本を厳守することによって、オリジナル・マスターテープの情報を最大限に引き出すことが出来るのです。またモノラル録音こそ、ステレオ・セパレーションのギミックがないだけに、真の音質向上が問われます。今回のXRCD24化に当たっては、純正モノラル・サウンドの再現にこだわり、究極のリマスタリングを実現しました。なお、トスカニーニ録音のXRCD24化のレパートリーの選定にあたっては、
1.テープ録音、つまり1949年12月以降の録音であること。
2.NBCの放送録音ではなく、RCAによる録音であること。
3.音響の良いカーネギー・ホールでの録音であること。
4.トスカニーニの代表的な名盤であること。
を原則としました。アコースティック時代の1920年から引退する1954年まで膨大な録音をおこなったトスカニーニの場合、同一曲でも複数の録音が残されていることが多いのですが、そうした場合は以上の原則に基づいて選んでいます。

杉本一家
[XRCD24プロデューサー、マスタリング・エンジニア]

(Yuji)