じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「地歌のいろは~九州系地歌と上方地歌の競演~」令和3年度(第76回)文化庁芸術祭(レコード部門)大賞受賞!

このたび日本伝統文化振興財団制作の「地歌のいろは~九州系地歌と上方地歌の競演~」(藤本昭子、菊央雄司ほか)(2021年3月24日発売)が、令和3年度(第76回)文化庁芸術祭レコード部門の大賞を受賞しました。

 

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本作品は、地歌箏曲家藤本昭子が主催した地歌公演「地歌のいろは」(2020年12月12日紀尾井小ホール)に寄せられた大きな反響を踏まえ、公演の全曲目を同じ演奏者で改めてスタジオ録音したCDアルバムです。公演時の音と映像記録が万全に残されていたにも拘らず、再度のチャレンジとなるスタジオ録音を自ら主催した藤本昭子の狙いは、九州系地歌と上方地歌の微細な表現の差異とそれぞれの味わいを、このまたとない機会を捉えて余すところなく記録に残すことにありました。ここに、古典地歌の継承に懸ける藤本昭子自身の強い願いが込められています。さらに今回のスタジオ録音では、独演だった公演時の舞台演奏とは異なり、上方地歌の技芸の真髄に迫る、一人二役の多重録音で「浪花十二月」が収録されました。

現代の地歌の主流となっている九州系と地歌の本家本元である上方の伝承や味わいの違いに着目した公演開催や音声記録は、これまでなかったと言って過言ではありません。古典地歌の継承者としての視点から藤本昭子が立案した手法は次の通りでした。

1曲ずつ通して九州系と上方を聴き比べる「黒髪」、九州系と上方で1曲を交互に演奏し、双方の歌と三弦を聴き比べる「雪」、上方地歌ならではの「浪花十二月」、九州系地歌ならではの三弦本手・替手合奏による「難波獅子」、そして出演者5人が5様の演奏形態を取る「松竹梅」。この多彩なバリエーションは、実力で三曲界の第一線を牽引する助演者のサポートがあって、初めて可能となったことは言うまでもありません。さらに本作品は演奏楽器にも拘り、九州系地歌の芸祖長谷幸輝検校遺愛の明治期の東京の三弦、その写しとして熊本で作られた大正期の三弦、上方地歌に伝えられる大正期の野川三味線が曲目ごとに選ばれ使用されました。

日本の伝統芸能は、それぞれのジャンルに優れた芸系や特徴ある流派がいくつも生み出されています。京阪の地で生まれた地歌もその例に漏れず、本来の味わいを今に伝える菊筋、富筋の芸系や、現在の地歌三弦とは楽器形態が異なる柳川三味線、野川三味線が途絶えず継承されています。

日本の古典芸能の多彩で豊かな広がりと繊細な味わいの一端を、異なる芸系の微細な差異に着目して企画収録された本作品を通じてお聴き取り頂きたいと願っています。

 

【受賞理由】

多彩な演奏形態とそれぞれに適した選曲によって九州系地歌と上方地歌の差異を検証しつつ、両者の魅力を存分に示すことに成功している。演奏会での録音ではなく、スタジオで録音し直すことによって精度が高まり、この意欲的な企画趣旨をより明確にすることで、記録・研究・そして鑑賞においても完成度の高いものとなった。

 

藤本昭子さんは日本伝統文化振興財団賞第7回の受賞者です。令和2年度(第75回)文化庁芸術祭(レコード部門)では、「雪墨 YUKISUMI/藤本昭子 佐藤允彦」で大賞を受賞。2年連続の大賞受賞となりました。

20年前からスタートした「地歌ライブ」は、去る2021年11月28日に第100回公演をもって終了し、また新たな一歩を踏み出されたばかりの藤本昭子さん。2022年1月22日(土)には、国立劇場小劇場にて「藤本昭子の会」第1回演奏会が開催されます。