じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

頌 春 「伝統を未来に…」

 日本伝統文化振興財団は、一九九三年ビクターエンタテインメント社を基金元として設立され、爾来伝統音楽・芸能分野のCD・DVDの公刊、歴史的音源のアーカイブ化と公開、主催公演、顕彰や演奏会支援による実演家育成、楽器貸出による邦楽教育支援、国際交流など伝統文化の普及、振興に携わって参りました。近年はネットとデジタルの時代に対応した音楽配信事業を立ち上げ、伝統音楽・芸能の継承をより確かなものにするべく努めています。

 本年も初心を忘れることなく、「伝統を未来に」を合言葉に、新しい時代の要請に応えながら伝統文化・音楽文化の発展に取り組む所存です。

 皆さまには、変わらぬご支援ご協力を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

 

   令和六年元旦

 

公益財団法人日本伝統文化振興財団

理事長 市橋 雄二

 

役員

理事  磯田 浩平

    市橋 雄二

    加納 マリ

    児玉 信 

    薦田 治子

    高田 英男

    田畑 英雄

    野川 美穂子

    平原 雅彦

    藤本 昭子

監事  渡辺 好史

 

評議員 田中 隆文

    中島 一子

    西潟 昭子    

    藤原 道山

    増渕 保夫

    米川 敏子

 

職員  家納 小枝

    私市 智子

    杉村 秀子

嘱託  温井 亮

 

顧問  田中 英機

    藤本 草

 

(五十音順)

サブスクはいい音で。

前回のブログでは月額定額制の音楽配信サービス、サブスクリプション(サブスク)を利用して「秋の夜長に邦楽三昧」というテーマを取り上げましたが、スマホタブレットやパソコンで音楽を聴くことに抵抗がある方もいらっしゃるかも知れません。デジタル機器の内蔵スピーカーは音が貧弱、ヘッドホンやイヤホンで長時間聴くと疲れる、など。最近の内蔵スピーカーは昔に比べるといい音がしますが、確かに家で落ち着いて音楽を楽しむには不向きな面があります。

スマホやパソコンで受けた配信音源をそれなりの音で聴くにはネットワークオーディオアンプにBluetoothで接続しスピーカーで聴く方法が一般的(高音質のハイレゾ音源を専用の機器に接続するマニアックな方法もあります)ですが、そこまでしなくても「手軽に・いい音で」楽しみたいという方にお勧めなのがワイヤレスのポータブルスピーカーです。多くのメーカーから様々なスピーカーが発売されていて迷いますが、筆者のお気に入りは深みのある低音に特徴のある海外メーカーB社のポータブルBLUETOOTHスピーカーです。コンパクトな筐体ながら驚くほどの高音質サウンドです。ロックやジャズのみならず、邦楽などのアコースティックな音楽やラジオのアナウンサーの声なども低音がしっかり出ていることで明らかにいい音になり、聴きやすくなります。アンプ&スピーカーをお持ちの方は「夜に一人机に向かって音楽を聴くときにはポータブルスピーカーで」という使い分けも一興です。もちろん音には好みがありますから、実際に店頭で試聴して自分に合ったスピーカーや機器を選ぶのが一番ですが、以上参考にしていただければ幸いです。サブスクはいい音で。

(茶目子)

秋の夜長に、サブスク邦楽巡り。

昨今片手にのるスマホタブレットで世界中の音楽が手軽に楽しめる聴き放題の音楽配信サービス、サブスクリプション(サブスク)が音楽の聴き方の一つとして定着した感があります。今やWi-Fiやモバイル通信によるネット接続がどこにいても可能な時代、月に1000円程度の定額料(広告入りの無料サービスもあります)で世界中の1億以上の曲(サービスによって異なります)にアクセスできるのですから、これぞまさしく玉手箱。

サブスクはお目当てのアーティストや曲をお気に入りに入れて繰り返し聴くもよし、その時々の気分に合わせて検索をかけてランダムに聴くもよし、そして自分の興味に合わせて検索を使った深堀をするもよし、様々な使い方ができるのが大きなメリットです。今日はそんな中から、秋の夜長に、検索による邦楽巡りと参りましょう。

誰もが知っている邦楽曲、曲名は知らないが聞けばわかる曲といえば箏曲「六段」ではないでしょうか。手始めにサブスクサービスの検索窓に「六段」と入れて検索してみると、たくさんの音源が並びます。宮城道雄、中能島欣一、沢井忠夫、米川敏子といった大御所に混じって、見砂直照と東京キューバン・ボーイズの名も。また、原信夫とシャープス・アンド・フラッツと山本邦山のコラボ・アルバムから「六段くずし」、さらに端唄から栄芝の唄う「六段くづし」も並んでいます。そして、胡弓の入った地歌「六段」(阿部桂子)。これらを順に聴いていくだけでたっぷりと秋の夜長を楽しめそうです。

今度は趣向を変えて、お坊さんが唱える声明曲の中で法要の中でよく聞かれる「四智梵語(しちぼんご)」と入力して検索してみましょう。真言宗から醍醐寺天台宗から比叡山延暦寺の音源が並んでいます。国を越え、時を超えて伝えられる伝承のバリエーションを味わうことができます。

さらに民謡の定番曲「津軽あいや節」を検索してみると、高橋竹山、山本謙司、藤みち子といった三味線奏者、民謡歌手に混じって、細川たかし香西かおりなどの演歌歌手の名前が。これぞ人気の証。そして、なんと寺内タケシによるエレキギター版「津軽あいや節」も。聴き比べると寺内タケシの演奏がもっとも元曲とされる熊本・天草地方の「牛深ハイヤ節」、そしてさらに南方、奄美の「六調」を彷彿とさせるという発見。

皆さんもぜひ秋の夜長にサブスクを使った邦楽巡りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

(なお、検索結果はサブスクサービスによって出方が異なります。)

収録アルバム例
(左から「六段」阿部桂子「四智梵語醍醐寺津軽あいや節」藤みちこ)
(茶目子)

夏の盆踊りシーズンに行ってみたい講演会のご案内


2023年8月は「東京音頭」が誕生してから90年。百年近い時を経てなお歌い踊り継がれる「東京音頭」の誕生とその後の影響を紹介する講演会が以下の通り開催されます。

 

講演名:「東京音頭」という新民謡の発見〜地域振興曲の誕生90周年

日時:2023年8月4日(金)19時〜20時30分(18時30分開場)

会場:日比谷図書文化館地下1階 日比谷コンベンションホール(大ホール)

講師:刑部芳則(おさかべよしのり)日本大学商学部教授

定員:200名(事前申込制、定員に達し次第締切)

参加費:1000円

主催:千代田区日比谷図書文化館

100-0012 東京都千代田区日比谷公園1-4(日比谷公園内)電話:03-3502-3340

講演会の詳細および申込フォームはこちらから↓

https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/information/20230804-_90/

 

東京音頭」(作詞:西條八十、作曲:中山晋平、唄:小唄勝太郎・三島一声)は、昭和8年の夏に当財団の基金元であるビクターからレコードが発売され大ヒットし、全国に音頭ブームを巻き起こしました。この歌の誕生の物語を知れば、盆踊りがさらに楽しめることうけあい。当財団からもスタッフが参加する予定です。

(本記事は講演会主催者の了解を得て掲載しています。)

 

複製芸術としてのレコードを想う〜諸井誠作曲「有為転変」の再演を機に

去る6月10日、国立劇場の自主公演「現代邦楽名曲選〜創作の軌跡」の中で、諸井誠作曲の「有為転変」が上演された。三人の演奏者が位置を変えながらアドリブを交えて演奏するこの曲は、1972年、諸井の空間音楽の一頂点とされる「S.M.のためのシンフォニア−伸」(演奏:宮下伸)をレコード化するにあたって、レコード会社(ビクター。当財団の基金元)がB面収録用に委嘱したもので、1973年、『諸井誠 和楽器による空間音楽』のタイトルで4チャンネル・ステレオ(CD-4)方式レコード(CD4K-7518)として発売された。4チャンネル・ステレオとは4台のスピーカーを前後左右に配して聴く立体音響装置のことで、日本ビクターが1970年に開発し普及に力を入れていた。

 

このような経緯で創作された「有為転変」が50年の時を経て名曲として選ばれた背景には、現代邦楽の歩みにおける移動演奏を用いた創作と実演への評価があったものと思われる。当時のレコード解説によると、本曲は「ステージでの演奏との両立性を考慮して作曲されているが、4チャンネル音場内での三人の演奏(尺八、箏、打楽器)のポジションや移動による音場の移り変わりが音楽的重要性からいえば優先しており、ステージ演奏の場合はその動きをステージ上の演奏の動きに移し変える」のだという。今回の演奏はまさにこのステージ演奏化を実現したものだ。酒井竹保(尺八5管)、宮下伸(十三絃箏、十七絃箏)、藤舎呂悦(小鼓、太鼓、締太鼓、打楽器)の三人によって初演されたこの曲を今回は長谷川将山、中井智弥、住田福十郎という若き実力者が演奏した。舞台は作曲時に構想されていた「三人の奏者が己れを主張し、ポジションを確保するために相争うころから生まれる緊張や弛緩の音楽的表現」(同解説)が遺憾無く発揮されたものとなり、会場からは万雷の拍手が送られた。

 

4チャンネル・ステレオはその後普及することなく、そのためのレコードが作られることもなくなった。作曲者や演奏者とレコードの録音再生技術とが相互に影響し合いながら新しい音楽が創作されていた当時は、今から思えばレコード会社が新しい音楽の創造に積極的に関わった時代であった。時代が下り、今や音楽創作は一個人で完結するパソコン上でのプログラミングが主流となり、生楽器やボーカルをダビングする録音はあっても大きなスタジオやホールを利用して実験的な録音が行われることはアコースティックやオーケストラなど一部の音楽を除き稀である。折しも、雑誌『レコード芸術』がこの7月号をもって休刊となった。録音を音楽作品として評価して論ずる貴重な場を失った今、複製芸術としてのレコードの存在意義を誰かが語り継いでいかねばならない。

 

立体音響については映画の音響技術を用いたドルビー・アトモスという方式が近年登場し、音楽制作の現場にも取り入れられるようになってきていると聞く。今回の「有為転変」の再演に触れ、空間音楽に限ったことではないが、録音再生技術の進歩を担うレコード関係者と作曲家や演奏家がもう一度関係を深め、複製芸術としてのレコード(録音、編集を経ていったん音源として固定されればメディアはCDでも音楽配信でも構わない)の美的価値を今後も維持し、高めていくことに自覚的であらねばならないとの思いを新たにした。

(茶目子)

 

生〈夢玄〉を聴く千載一遇のチャンス~最新出演情報

2023年7月2日(日)、東京・国立劇場小劇場にて開催される「千人鼓こころの祭り」公演の第2部〈夢玄の世界〉にメンバーが出演。2007年発売のCD「夢玄Ⅲ/かぎろ火」収録の人気曲「雪の大和路」を藤間心・内田幸子(藤間心翔)が、2000年発売のファーストアルバム「伝説の誕生」収録の「城野の雨」を藤間舞華が踊るほか、6月28日発売のニューアルバム「夢玄Ⅳ/戦国」から新曲2曲「月下の舞」「和田合戦記」を披露。生で夢玄を聴く千載一遇のチャンスです。16:00開演。チケットは5000円(自由席)。お問い合わせ・チケットのお申し込みは、千人鼓の会(電話:090-7131-5181)まで。

創作邦楽集団[夢玄MUGEN]のニューアルバム『夢玄Ⅳ 戦国』が完成。


西暦2000年の記念すべき年に、歌舞伎・長唄の第一線で活躍する杵屋勝四郎(唄方)、杵屋勝七郎(三味線方)、望月太津三郎(囃子方)の3人が江戸の昔から伝わる音楽と今日の音楽スタイルを大胆に融合させ、現代に生きる人々と伝統音楽の架け橋になることを目指して結成した邦楽創作集団[夢玄]。今回望月太津之(囃子方)、藤舎呂英(囃子方)、福原寛(笛方)の新メンバー3名を迎えて復活し、既報の通り制作中だった15年ぶりとなるニューアルバムが完成、6月28日リリースされる。本日ジャケットを初公開。

 

アルバムコンセプトは戦国
なれど
世界の平和と安寧を祈念致します
杵屋勝四郎