じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

掛合の美

国立劇場の「邦楽名曲鑑賞会 掛合の美」に行ってきました(2012年6月16日 国立劇場小劇場)。

第160回邦楽公演とあります。国立劇場は昨年開場45周年を迎えましたが、長い歴史のある公演なのですね。
今回は邦楽でよく使われる手法、「掛合(かけあい)」に焦点をあてた興味深い企画でした。まず、小島美子先生のお話があり、子どものときに遊んだ「花いちもんめ」も歌の掛合といえるもので、日本には古来このような形の歌がたくさんあるとのこと。和歌のやりとりや連歌連句など文学もその影響を受けていますし、さまざまな音楽の分野でもこの形式が発展してきたということです。
「掛合の美」のプログラムは全4曲。
1曲目は尺八2管の吹き合わせ(掛合)による「鹿の遠音(しかのとおね)」。深山に雄鹿が雌鹿を慕って鳴き、こだまするという風情。演奏する善養寺惠介さんと芦垣皋盟さんが、同じメロディを交互に奏でているようでありながら、少しずつ変化していく掛合の妙を味わいました。
2曲目は河東節(かとうぶし)と一中節による掛合で「邯鄲(かんたん)」。こちらは違うジャンルによる掛合の例です。河東節と一中節はどちらも古曲と呼ばれる浄瑠璃ですが、河東節は江戸生まれで細棹三味線、一中節は上方生まれで中棹三味線を使い音も低め。この組み合わせによる掛合の演奏は18世紀、江戸時代からあったそうです。舞台の向かって右が河東節のグループ、左が一中節のグループで、掛合で演奏することによって、音色や節の違いがよくわかりました。
ここまでは古くから行われている掛合ですが、この後の2曲はこの公演ならではの珍しい企画でした。
3曲目が地歌箏曲の「宇治巡り(うじめぐり)」で、本来は合わせることのない山田流箏曲の亀山香能さんと地歌の藤井泰和さんの合奏で名手による箏と三弦の掛合を楽しみました。
そして最後は清元節長唄の掛合による「三重霞嬉敷顔鳥(みえがすみうれしきかおどり)」(通称「朝比奈の傀儡師(あさひなのかいらいし)」)。
1803年に富本節(とみもとぶし)と長唄の掛合で初演されたそうですが、それ以来、掛合の記録はなく、今は長唄に伝わるのみという曲です。それを今回、富本節と縁の深い清元節長唄との掛合として復曲したという貴重な演奏を聴くことができました。長唄三味線の今藤政太郎さん、清元三味線の清元美治郎さん、お囃子の藤舎呂船さんがそれぞれ補曲、編曲、作調を手がけられたそうです。
邦楽の演奏会は一つのジャンルのみの会が圧倒的に多いのですが、この日はシンプルな尺八2管の掛合に始まって、最後の清元6名、長唄8名、お囃子5名に蔭囃子2名という大編成による掛合まで、国立劇場の企画ならではの、さまざまなジャンル、スケールの掛合を体験することができました。

(Y)