じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

筑前琵琶 奥村旭翠独演会

今年4月の奈良・薬師寺の修二会花会式(しゅにえはなえしき)の聴聞にお誘いいただいた(過去ブログ記事参照→ 「薬師寺 花会式」)中山一郎さんから、奥村旭翠(おくむら・きょくすい)さんの筑前琵琶の演奏会のお知らせをいただきましたので、ご紹介させていただきます。奥村さんは、琵琶の人間国宝だった故・山崎旭萃(やまざき・きょくすい)さんに師事し、関西を中心に活動されているため、東京で聴くことができるのは大変に貴重。

───「心で聴いてほしい 奥村旭翠の琵琶のひびき。山崎旭萃師(人間国宝・故人)から直伝の、大曲<安宅>が聴ける、またとない機会です。」

 

筑前琵琶 奥村旭翠独演会
日時=2012年11月16日(金)開演18:30(開場18:00)
会場=紀尾井小ホール
演唱=奥村旭翠(筑前琵琶橘流日本橘会・大師範)
演目=
第1部・<屋島>・〔お話〕小島美子(国立歴史民俗博物館名誉教授)
第2部・<安宅>(全曲)
入場料=全席自由 3,000円
お問合せ・チケット申込み=奥村旭翠独演会事務局(中山一郎) 06-6871-1424/紀尾井ヒホールチケットセンター 03-3237-0061


上にご紹介したチラシ裏面に掲載されている、小島美子(こじま・とみこ)さんの言葉。

筑前琵琶の新しい魅力 奥村旭翠
小島美子国立歴史民俗博物館名誉教授・日本音楽史

筑前琵琶の希な名人、人間国宝の山崎旭萃師が亡くなられたとき、もう筑前琵琶のいい演奏は聞けなくなったと、私は落胆した。しかしそれは誤った速断だった。
山崎師にひたすら学び、いわば地味な存在だった奥村旭翠師が、師亡き後の責任も自覚されたのか、次第に輝き始めたのである。
もともときれいな日本語の発音、一語一語のニュアンスを大切にされた美しい節廻しなどは多くの人が認めるところだった。しかし山崎師の力強い迫力ある表現の印象が余りに強かったため、奥村師の、聴衆の胸の内にしみ込むような表現が見え難かったのかもしれない。
奥村師は自分にふさわしい表現スタイルに磨きをかけ、筑前琵琶の新しい魅力を紡ぎ出してこられたのである。
考えてみれば筑前琵琶は最初から女流の方々が関わってこられたので、むしろ奥村師の表現スタイルは筑前琵琶にふさわしいものともいえる。花開くのが遅かったとはいえ、その分、味わい深い奥村師の芸を堪能していただきたい。


同じく、チラシ裏面に掲載されている、筑前琵琶についての説明と、演目の紹介。

筑前琵琶について

筑前琵琶は、明治時代の中頃、筑前琵琶盲僧の家に生まれた橘智定が薩摩琵琶の要素を加えてその基を作りました。薩摩琵琶とは異なり女性の演奏家が多く、演奏スタイルも優雅・哀婉が生命とされますが、琵琶楽らしい豪快さや悲壮な表現なども踏襲しています。琵琶は、薩摩琵琶に比べて少し小型で五弦五柱を主流とし、撥は薩摩琵琶のように角張ってはいません。琵琶の弾法は多くは句と句の間に弾かれますが、聴かせどころである「攻め」と「流し」では歌っている間も弾かれます。


演目紹介
屋島(詞=達村玉蘭/曲=橘旭宗)

源平合戦の激戦のひとつ「屋島の合戦」を題材にしたものです。
源義経後白河法皇から平家追討の院宣を得て出陣、元暦2(1185)年卯月、摂津国・渡邊津で戦評議をします。梶原景時の反対を聞かず(いわゆる、逆櫓論争)、怒濤吹き荒れる豪雨の夜、僅か150騎で阿波国に上陸して北上し、讃岐国屋島で平家軍を撃ち破ります。
この曲は、屋島の合戦の勇猛果敢な場面と、奥州から付き従った佐藤継信・忠信兄弟のうち、継信が義経を庇って平教経の強弓に倒れたことを嘆き悲しむ場面との両方が語られます。

〈安宅〉(詞=佐藤菊南/曲=橘旭宗)

源平合戦の後日譚とも言うべき、能の〈安宅〉、歌舞伎十八番の〈勧進帳〉をもとにして作られた筑前琵琶の大曲です。
兄の頼朝に追われ、山伏姿に身をやつして奥州へ落ちて行く義経主従は、安宅の関で関守 富樫左衛門に見咎められます。先達の弁慶は、東大寺建立のための一行であると、勧進帳を天にも響けと読み上げますが、なおも怪しまれたため、金剛杖で義経を打ち据えて富樫の嫌疑を晴らそうとします。富樫は弁慶の主君を想うその心情に感じ入り、一行を通してやります。弁慶と富樫の、丁々発止の「山伏問答」が特に聴きどころです。


奥村旭翠プロフィール

1973年 山崎旭萃に師事
1976年 NHK邦楽オーディション合格
1985年 筑前琵琶 日本橘会「師範」
1996年 大阪文化祭賞受賞(於 第四回 秋の韻 琵琶のひびき)
2003年 文部科学省主催伝統音楽研修会講師として出演
2004年 藤井寺市伝統文化こども教室開催
2006年 筑前琵琶 日本橘会「秀師範」
2007年 筑前琵琶 日本橘会「大師範」
2008年 大阪市民表彰受賞
筑前琵琶日本橘会会員(専務理事)
・日本琵琶楽協会会員(関西支部支部長)
筑前琵琶連合会会員(常任理事)
・旭萃会会員
びわの会主宰


ところで、奥村旭翠さんの師匠だった故山崎旭萃(やまざき・きょくすい)さんは、1979年ソニーから発売された3枚組LP筑前琵琶・琵吟 山崎旭萃集』がこの年(昭和54年度)の第34回芸術祭レコード部門優秀賞を受賞。山崎さんの芸風の柱のひとつは、琵琶と詩吟との融合でした。このレコードは未CD化です。

また同年にNHKで放送初演された松村禎三作曲「篠笛と琵琶のための詩曲」では、こちらも同じ第34回芸術祭の放送部門で優秀賞を受賞されています(篠笛は藤舎推峰さん。この年、松村さんはサントリー音楽賞を受賞されています)。「篠笛と琵琶のための詩曲」は、1981年に日本ビクターが制作したLPボックス松村禎三の音楽』に収録されていましたが、この曲は未CD化です。(ちなみに、このボックスLPの録音担当は、今でも当財団による収録等でお世話になっている服部文雄さんです。)

現在、山崎旭萃さんの演奏を聴くことができるCDは、コロムビアから発売されている「人間国宝 琵琶(筑前) 山崎旭萃」(COCJ-34032)〔収録曲=毛利元就厳島の戦)、茨木、明智光秀(小栗栖)〕と、当財団から発売している「筑前琵琶/山崎旭萃」(VZCF-1003)〔収録曲=安宅、一の谷、隅田川〕の2枚だけです。

 


当財団では、琵琶楽の奥深い魅力を堪能できるCDを数多く発行しております。(じゃぽ音っと ジャンル検索「琵琶」→

  
  


当ブログ関連過去記事
「肥後の琵琶弾き 山鹿良之」(5回シリーズ)
「十一月の階梯、鶴田錦史の琵琶」(2011年11月23日)


(堀内)