じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

歌舞伎「摂州合邦辻」「達陀」

今日は久しぶりに休暇を取って、日生劇場で歌舞伎を観てきました。通し狂言『摂州合邦辻』では尾上菊之助の玉手御前がじつによかった。今年5月の大阪松竹座で初めて玉手を演じてこれが二度目の舞台ということですが、難しい役を劇の進行に応じて見事に演じ切って、約4時間の長丁場にも関わらず、終始観客の耳目を引きつけていました。大詰の「合邦庵室の場」では涙で舞台が霞みました。この作品は継子への恋慕を軸とする内容が不道徳だとして昭和になって復活するまで上演が少なかったとのことですが、たしかに現代演劇にも通じる絡み合う心理の綾が不条理な美しさを醸し出しています。現代劇の殿堂でもある日生劇場での上演に相応しい演目だったと思います。

そしてお目当てだったのが『達陀(だったん)』。これは二世尾上松緑が昭和42年(1967年)に初演した東大寺の「お水取り」に取材した作品。練行衆の僧集慶を、今回は当代松緑が歌舞伎公演としては初めて演じるということで、新聞などでも話題を呼んでいました。二世松緑(藤間勘齋)による振付ですが、僧集慶と青衣(しょうえ)の女人(にょにん)の静の舞踊と、練行衆による火と水を主題にした動の群舞、いずれもがじつに素晴らしい。昭和45年にNHKスタジオで収録された『達陀』のDVDは見ていたので、作品の内容は知っていましたが、実際に見る舞台の迫力はまったくの別世界でした。この作品も日生劇場の雰囲気にぴったりでした。

日生劇場に来たのは久しぶりでしたが、ロビーのゆるやかに螺旋形を描く階段や、ガウディの建築さえ彷彿させる客席内の壁や天井の波打つような曲面は、いつ見ても刺激的です。
日生劇場」の画像検索結果→

東大寺の修二會(しゅにえ)、通称「お水取り」は、日常犯している過ちを本堂の十一面観音の前で懺悔し、国家や万民のために祈りを捧げるという儀式です。752年から一度も途切れずに行われてきました。今年3月、初めて聴聞に訪れて、深夜の達陀の行も間近で見ることができました。以来、修二會関連の本を読むことも増えました。今月16日に来年の練行衆の発表が行なわれるようです。来年の3月も、また奈良へ行きたいと思います。以下は、今年1月に当財団から発売したCD「お水取り 東大寺修二会(実況録音)[語り:小沢昭一]」です。

ところで『達陀』を観て、あらためて感じ入ったのが音楽でした。作曲は中能島欣一と二世柏伊三郎。打楽器を駆使した原始的でダイナミックなオスティナートが修二會(しゅにえ)の激しい行法を見事に描き出していました。中能島欣一といえば山田流の名人として古典ばかりでなく創作面でも数多くの名作を残しましたが、その凄さを再認識。というわけで、帰宅後はさっそくこのアルバムを取り出して聴き返したという次第。

日本音楽の巨匠 山田流箏曲──中能島欣一

当財団の中能島欣一関連CDはこちらです。→

(堀内)