じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

金沢蓄音器館


一昨日のレ・コード館につづいて、「日本の基礎音楽資料としてのSP盤」の調査で今年の3月初旬に訪ねた金沢蓄音器館をご紹介します。
こちらは金沢市内でレコード店を営んでいた八日市屋浩志氏が収集してきた蓄音器540台、SPレコード約2万枚の「山蓄コレクション」を基に、2001年に開館した金沢市文化施設です。その後に寄贈されたコレクションも含めて、約3万5千枚のSP盤を所有しています。→金沢蓄音器館ホームページ

2階と3階にはSP盤を再生する蓄音器の数々が展示されていて壮観です。どれも立派なデザインで、蓄音器を持っていることがステイタスだった時代がしのばれます。蓄音器を聴き比べる実演コーナーで、SP盤をいくつか聴かせてもらいました。
レ・コード館でも同じように感じましたが、大きなラッパから聞こえてくる音色は豊かで音量もあり、そこに人がいて歌っているような臨場感さえありました。1日3回の蓄音器の試聴には、金沢に観光で訪れた人も大勢立ち寄るそうです。
館長さんによると、蓄音器をなつかしがって聞く年配の方ばかりでなく、LPレコードも知らないような若い人が、その音色に驚き、素直に感動していくそうです。いつもCDやダウンロードによるデジタル音をヘッドホンで聞いている耳には、空気をふるわせて、全身で音楽を感じることができる蓄音器の響きは新鮮な出会いのようです。

SP盤の収蔵庫も見学させてもらいましたが、アーカイブとして機能しているのは一部だけということです。伝統芸能を育んできた土地柄ですから、邦楽や民謡のSP盤も多数ありましたが、その大部分は未整理とのこと。こちらも盤は大事に保管されているので、貴重なSP盤の存在を多くの人に知ってもらい、活用されることを願っています。
SP盤に収められた伝統音楽や芸能の記録には、途絶えてしまった曲や、いまでは失われてしまった古風な趣を伝えるすぐれた演奏が含まれます。その意味でも、未来に残すべき大切な資産であることは間違いありません。

ほとんどまる一日金沢蓄音器館におじゃまして外に出ると、目の前は「泉鏡花記念館」でした。閉館間際でしたが、せっかくなので鏡花の生家跡に立つ記念館を駆け足で見てまわりました。明治から大正・昭和の文化をしのばせる両館が並んで建っているのも金沢ならでは。こちらもまた、今度は仕事を離れてゆっくり訪ねてみたいと思っています。

(Y)