じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

土偶への祈り そして ヴァルキューレ

こちらのブログの紹介に興味をそそられ、NHK BSプレミアム『日本美術の1万年〜魂の縄文アート 土偶〜』 を観ました→日本美術の1万年・魂の縄文 土偶 - じゃぽブログ

面白かったですね・・・縄文人と同じ方法で土偶を作り、そして同じ使用法を体験するという番組。思わずうちにあった土取利行さんのCD「縄文鼓(じょうもんこ)」を取り出して聴き直してしまいました→じゃぽ音っと作品情報:縄文鼓——大地の響震[SHM-CD] /  土取利行  VZCG-686(SHM-CD

縄文時代と同じ作り方で有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)つまり縄文時代の太鼓を再現して制作したものを演奏しているCDです。NHK BSプレミアムの番組のほうでは、土取さんはアフリカの楽器を演奏していらっしゃいました。

番組の内容に戻りますが、土偶の<究極の使用法>体験とは、祈りの儀式として自ら苦労して作った土偶を自らの手で破壊すること。番組の中で体験者となる渡辺篤史さんと矢島床子さんが愛着の湧いてきた自作の土偶を壊さなければならないと知ったときの表情は「ショッキング」という感じでお辛そうでしたね。

わざわざ土偶を壊す儀式とは、現状では叶わぬ夢を次世代で叶えて欲しいと願い、新たな再生を繋ぐための祈りの儀式なのでした。

土偶制作の一場面。粘土で作られた女性の形の土偶が野焼きの大地の上で炎の輪で囲まれて焼き付けられている場面…、この場面はどこかで観たことあるな…と思いました。

ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指輪』四部作の二作目に当たる『ヴァルキューレ』の終幕。全能の神ヴォータンが最愛の娘であるブリュンヒルデを神々の世界から追放し、神性を奪われた彼女を眠らせて岩場に寝かせ、その周りを大きな炎で囲む場面があります。お間違いなく、これは娘を焼くのではありません・・・これは、勇気ある英雄にしか娘を得られないように娘を炎で囲って護っているのです。

この『ニーベルングの指輪』というオペラ。全能の力で慢心したヴォータンは神々の世界で自ら行き詰まり、神々の世界の終末「神々の黄昏」へ向かっていきます。慈しんで育てた愛娘を自ら自分の元から追放して、神を超える力を持った次世代の英雄の出現を願い、娘を託す。その英雄の出現は、やがて神々の世界の崩壊のきっかけになることを予感しながら。。。

NHK BSプレミアムの番組で悲しそうに土偶を壊す体験者のお二人の姿は、オペラの終幕での娘との告別に苦悩するヴォータンの姿と重なりました。

オペラ『ヴァルキューレ』では「ヴァルキューレの騎行」として知られる第三幕の序奏、そして終盤で「ヴォータンの告別」から「魔の炎の音楽」につながる部分はしばしば独立して演奏されますね。

ヴァルキューレの騎行」はF・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』のテーマとしてもお馴染みです。オペラでの「ホーヨートーホー」というヴォータンの娘達(ヴァルキューレ)のかけ声が印象的。

当財団のCDに収録されているアリアもお楽しみ下さい。
じゃぽ音っと作品情報:ノイズレスSPアーカイヴズ 伝説の歌声 5 ドイツ アリア集 /  (VARIOUS) VZCC-1032 の、12曲目が「ホーヨートーホー」。

(J)