じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

映画『ハーブ&ドロシー』


例えば、見知らぬ土地を旅した時、この大通りを進めば正しい方向に間違いないだろう、と暫くはその道を進むとする…。
ふと、自分の歩く道から脇道を覗くと、向こうに何やら賑やかな光景が見える…脇道に入ってその場所に出ると…な〜んだ!今まで歩いていた道に平行してこんな楽しい商店街が続いていたのか!最初からこの道を歩いていればよかった。でも、知らなかったのだからしょうがない・・・よし、これからはこの道を行くぞ。
そしてまた暫く歩き進むと横道に鮮やかな海がちらっと見える。思い切って今まで歩いている道から離れてその横道に入ると、あぁ!なんと素晴らしい海の眺めが広がっていることか!今度はこの素晴らしい景色を見ながらこの道を進むぞ。。。

こんな風に、人生においても新しい発見や体験によって分岐点に立ち、方向を変えることがありますよね? 縦のものを横にしただけでも観点が変わって、目から鱗というのでしょうか、今までの自分を陳腐に感じたり。

自分自身が音楽制作をしていて同様のことがありますし、比べるべくもありませんが、画家のピカソは「青の時代」「バラ色の時代」「キュビズムの時代」「ゲルニカの時代」など、めまぐるしく作風が変化したことが有名ですよね。目に見える、表面上の変化と、何を表現するのか?という一番大事な問題については取り敢えず置いておいて・・・

分岐点ともなった素晴らしい海の眺めに出逢った感動や目から鱗の喜びを誰かと分かち合いたいと思いますが、後になって説明しても自分の感動が半分も伝わらなくて、歯がゆいことが多いです。現場で共に体験するしかないでしょう。その瞬間に同時に居合わせることは稀なわけですが。

さて、『ハーブ&ドロシー』というドキュメンタリー映画を観ました。以下、ストーリーは公式HP→映画『ハーブアンドドロシー ふたりからの贈りもの』公式サイト、より(トレイラーあり)。

郵便局員ハーブと、図書館司書のドロシー、夫婦共通の楽しみは現代アートのコレクションだ。選ぶ基準はふたつ。
1. 自分たちのお給料で買える値段であること。
2. 1LDKのアパートに収まるサイズであること。
慎ましい生活の中で約30年の歳月をかけコツコツと買い集めた作品は、いつしか20世紀のアート史に名を残す作家の名作ばかりに!そんなふたりに、アメリ国立美術館から寄贈の依頼がやってきて……。

この二人は資産目的で膨大な数のアートを収集したのではありませんでした。これは!と思う作品に出逢ったその瞬間こそが、二人にとって至福の財産なのでしょう。その出会いの瞬間は、二人で同時に体験するのですから、同じ感動を共に分かち合えます。その至福の瞬間をもう一度味わいたい、という連続が結果として希有なコレクションになっていったのではないでしょうか。
二人は作家の画風が変わると、作家に何が起こったのか、全身を集中させて聞きたがります。なるほど。他人の分岐点も気になりますよね。あらゆる至極の時を収集しているのでしょう。
上映についてはこちら→Herb & Dorothy 50x50

(J)