じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「春日の風景」展

東京、南青山にある根津美術館の「春日の風景」展に行ってきました。

なんとなく奈良の春日大社にちなんだ展覧会だろう、というくらいの気分で出かけたのですが、思いがけなく清々しいときをすごすことができました。
春日は、百人一首にもとられている有名な阿倍仲麻呂の歌「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」にも出てきます。
春日大社のイメージが強いのですが、この社が建てられる前から、ここは聖なる地として特別な意味をもつ場所だったそうです。展覧会の案内には、このようにあります。(→根津美術館開館70周年記念特別展「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」

奈良・春日山の西峰御蓋山(みかさやま)は古代より神の山として拝され、山裾の春日野は和歌に詠まれる名所でもありました。そしてこの地に創建された春日社の信仰は、神が鎮まる聖地のすがたを表す独自の絵画を生み出しました。本展覧会では、名品「春日権現験記絵」をはじめ、春日曼荼羅伊勢物語絵そして名所図屏風に至る、春日の景観を描いた中世〜近世の絵画・工芸作品約35件を展示し、聖地、名所そして文雅の地である「春日」のイメージの展開と諸相をご覧いただきます。

まず何種類もの「春日宮曼荼羅」が展示されていますが、これは「空海密教美術展」などで見た密教曼荼羅とはちがい、中空から俯瞰した神社の案内図のような印象です。長い参道があって、その先に春日社の伽藍、そしてその背景には御蓋山春日山が描かれ、山の端に月がかかっています。
参道には鹿も描かれています。「8世紀、武甕槌命(たけみかづちのみこと)は白鹿に乗って鹿島神宮を発ち、春日の地に来臨したと伝えられる。それゆえ春日信仰において鹿は、神の使者であり、神聖な動物とみなされる」とのことです。奈良公園で鹿が大切にされているのは、こんな古い経緯があったのですね。
「春日宮曼荼羅」がずっと時代を経ると、次第に「月と鹿」だけでもう神聖な春日野を象徴するようになります。そのプロセスがとてもよくわかりました。展示のなかで、とくに印象に残った3点をご紹介します。
春日権現験記絵」(鎌倉時代 延慶2年(1309)頃 宮内庁三の丸尚蔵)・・・春日社創建の由来や春日神の霊験(れいげん)を描いた壮大な絵巻。巻第19の雪が降りだした春日の野山。その雪化粧の美しさとそこから霊気がたちのぼる様に目をうばわれました。
春日神鹿御正体(かすがしんろくみしょうたい)」(鎌倉〜南北朝時代 13 〜14 世紀 細見美術館蔵)・・・銅製の鹿の像ですが、まさに春日鹿曼荼羅を具現したようなありがたさの漂う工芸品。
「瑠璃(るり)燈籠」(鎌倉時代春日大社蔵)・・・青いガラスのビーズで飾られた灯籠。実際に朱色の春日社の本殿を照らしていたそうです。灯が入ったらどんなに美しかったことでしょう。
こちらのブログに展覧会場の写真が出ていますので、雰囲気がおわかりいただけると思います。→◆
そういえば、山田流のお箏の曲に「春日詣(かすがもうで)」というのがあるのを思い出しました。こちらのCDで聞いてみようと思います。→じゃぽ音っと作品情報:第5回ビクター伝統文化振興財団賞「奨励賞」山登松和 /  山登松和

根津美術館は都心にありながら緑豊かで、お庭の散策もできます。

お茶室もある広い日本庭園ですが、さりげなく置かれている石像や石塔も美術品級です。


秋晴れの日、散策も楽しむことができました。展覧会は11月6日(日)まで。伺ったのは先週ですが、そろそろ色づく木々が見られるかもしれませんね。

(Y)