じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

映画『一命』(いちめい)

一昨日の土曜日に公開された映画『一命』を先週試写会で観ました。監督:三池崇史 原作:滝口康彦 主演:市川海老蔵瑛太 音楽:坂本龍一
詳しくは→http://www.ichimei.jp/
日本の楽器も使われていて興味深いです→坂本龍一:Original Sound Track 一命 Harakiri - death of a samurai CDアルバム
映画キャッチコピーは「いのちを懸けて、問う―― なぜ男は、切腹を願い出たのか――。世界を圧倒した衝撃の超大作。」
一応以下にあらすじです。

戦国の世は終わり、平和が訪れたかのようにみえた江戸時代初頭、徳川の治世。その下では大名の御家取り潰しが相次ぎ、仕事も家もなくし生活に困った浪人たちの間で【狂言切腹】が流行していた。それは裕福な大名屋敷に押し掛け、庭先で切腹させてほしいと願い出ると、面倒を避けたい屋敷側から職や金銭がもらえるという都合のいいゆすりだった。そんなある日、名門・井伊家の門前に一人の侍が、切腹を願い出た。名は津雲半四郎(市川海老蔵)。家老・斎藤勘解由(役所広司)は、数ヶ月前にも同じように訪ねてきた若浪人・千々岩求女(瑛太)の、狂言切腹の顛末を語り始める。武士の命である刀を売り、竹光に変え、恥も外聞もなく切腹を願い出た若浪人の無様な最期を……。そして半四郎は、驚くべき真実を語りはじめる。

公開したばかりですので、結末のネタばらしにならぬよう内容についてはここでは控えますが、映画の中で「赤備え」と呼ばれる総朱塗りの鎧兜が井伊家の家宝として登場します。これが「武士の面目」の象徴となっています。もともと「赤備え」は、武具を総朱塗りにした甲斐武田軍があまりに強かったために「最強部隊」というイメージが広まり、武田家滅亡後は井伊直政が引き継いで、「井伊の赤備え」も武勇の誉の象徴となったようです。(映画パンフレットの豆知識より)

さて、文楽人形浄瑠璃)の演目で時代物の『本朝廿四孝 十種香の段/奥庭狐火の段』をご覧になったことがありますでしょうか?『狐火』は歌舞伎でも上演されるんですよね。この演目には武田家の家宝である兜が登場します。この兜は諏訪明神に伝わる法性の兜で、八重垣姫が恋人の武田勝頼の危機を救ってくれるように一心に祈ると、諏訪明神の八百八狐が姫に乗り移り、凍った諏訪湖の上を兜を手にした姫が飛ぶように渡って勝頼のもとへ向かう、という幕切れです。

こちらで竹本扇太夫さんの義太夫を聞くことができます→じゃぽ音っと作品情報:邦楽舞踊シリーズ[義太夫] 狐火 /  竹本扇太夫 他

映画『一命』では「切腹」が題材となっていますが、文楽の時代物の演目では、たびたび切腹のシーンがあります。私が初めて観た文楽は『御所桜堀川夜討・弁慶上使の段』だったのですが、乳人の侍従太郎が状況をみて間髪を入れずに切腹した場面には、まさかの展開に度肝を抜かれました。これは主君を守るための深慮なのでした。この演目の内容についてはまた別の機会に…。

『一命』の大名達は天下泰平の世の中、戦のお役目がなくなった中で「武士の面目」を守るのに必死なのですが、歌舞伎や文楽の時代物をご覧になれば「武士の忠義」を守るために命を懸けた武士の時代を対比して感じることができるでしょう。
さあ、「守るもの」は、何か-----

(J)