じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

芸術の秋におすすめ「ドレミを選んだ日本人」

時節がら「芸術の秋」という文字を色々なところで目にしますが、ふらっと入った渋谷区の小さな図書館でも見つけました。
「芸術の秋 邦楽を楽しもう」
おおっ!ナイスなテーマのミニコーナーが出来ておるではないですか!
早速のぞいてみると、能狂言の楽しみ方、雅楽の味わい方、伝統芸能の仕事に就く方法…など様々な純邦楽に関する本が、栗や柿などの秋のオブジェと一緒に並べられております。なかなか粋なことをやりますね、図書館さん!

そこで、担当者のイチオシでメンチン(※俗にいう?!表紙を向けて置く事)してあった本を手に取り、面白そうだったので早速借りて読み始めてみました。

タイトルは『ドレミを選んだ日本人』、著者は千葉優子さんです。
(千葉さんは現在宮城道雄記念館資料室の室長でもあります。私も三曲に関する本は何冊か読んでいますが、どれも堅苦しくなく、読みやすいのでおススメです。)

私たちの耳はいつから日本の伝統音楽を異質なものと感じ、西洋音楽を快いものとして聴くようになったのだろう。明治以降、西洋音楽との出会いと葛藤のなかで、私たちの音楽的感性が変容してゆくさまを実証的に跡づけた、もうひとつの「近代日本音楽史」。(「BOOK」データベースより)


 この本、結論から言うと、とっても面白かったです!江戸時代から始まり、明治時代の文明開化を経て、日本人はどのように西洋音楽を受け止め、取り入れ、消化してきたかが書かれていますが、現代のたとえや小ネタも満載で、飽きずにどんどん読む事が出来ます。
 たとえば最初の方からも、「明治20年ころになってもまだ、イタリアオペラのアリアが歌われたとき、ソプラノの高い声に日本の聴衆は笑いをこらえるのに必死だった」とか「ローティーンの娘義太夫演奏家が寄席の素浄瑠璃で人気を博し、主に容姿本位で、青年学生層に熱狂的ファン、『追っかけ』まで作り出した。」など(本文より抜粋)、当時のことが面白く、またリアルに伝わってきます。
 そして本題に入り、明治になって本格的に参入してきた西洋音楽と従来からの日本音楽の二重構造、そして新日本音楽の登場…と読み進めるうち、明治・大正に音楽はもとより国について真剣に向き合い行動した人たちの苦難や努力が大変興味深く書かれています。
読み終わって、これから自分は音楽に対してどう向き合っていけばいいのかを改めて考えさせられる、そんな一冊でした。芸術の秋に、是非読んでみて下さい。

(まりちょ)