じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

1/3 NHK「修学院離宮」と柳川三味線

12/25の「じゃぽ音っとブログ」でお正月の邦楽番組をご紹介いたしました(→ 「新春は古典芸能の番組とともに」)。でもじつは、皆さまにお知らせ(&お薦め!)したいNHKのお正月テレビ番組がもうひとつあるのです。

今年度の当財団の邦楽技能者オーディションの合格者、柳川三味線(やながわしゃみせん)の林美音子(はやし みねこ)さんが、1月3日の朝にNHK総合で放送される特別番組「京都・修学院離宮」にご出演されます。番組内で柳川三味線の演奏場面が登場します。

宮内庁ウェブサイト内の「修学院離宮」のページはこちらです→ 「修学院離宮 施設案内」。ちなみに、この宮内庁のページにも詳しく案内されていますが、仙洞御所・桂離宮修学院離宮に関しては事前に宮内庁に参観申込書を提出する必要があり、申込みは4人以内、18歳未満は参観できません。

1月3日(火)[NHK総合]午前7:20〜8:15
「日本の原風景 京都・修学院離宮」

修学院離宮は17世紀の中頃に後水尾上皇によって京都市左京区比叡山の麓に造営された、王朝文化の究極の美の結晶といえる名庭です。以下は、同番組の案内HPに掲載されている内容紹介文です。

京都・修学院離宮は「日常を離れた別荘を持ちたい」という夢を理想の形で実現した別天地。江戸初期、徳川幕府により権限を奪われた後水尾上皇が、60歳をすぎてから3年がかりで作り上げた自然への慈しみに満ちた山荘です。広さは甲子園の15倍。比叡山の傾斜を巧みに利用した上・中・下の三つの茶屋と、山の上に築かれた巨大な池、その水が注ぎ込み今も耕作されている広々とした棚田、頂上からは京都の大パノラマを一望できる、それまでの庭園の概念を超える型破りなスケールです。ここには、農作業の様子まで含めた「日本の原風景」が生けどりにされています。
離宮滞在を楽しむ上皇らの姿は「修学院図屏風」に生き生きと描かれています。山上の東屋で雄大な風景を和歌に詠む姿、みやげとなる焼物を窯から運ぶ姿、宮中では御法度だった三味線を持ちこみ弁当持参で花見に興じる一団など、100人近い姿が描きこまれています。離宮には公家だけでなく町衆も集い、上質な「遊び」を繰り広げ、「文化」を生み出すサロンでした。
ハイビジョンによる本格的な撮影が初めて許された修学院離宮。様々な日本文化の源流となった桃源郷を、四季それぞれが格別の魅力を放つ瞬間をとらえてダイナミックに描きます。

この「修学院図屏風」には、離宮内の池に舟を浮かべ、その上で三味線を奏でている女性の姿の絵が描かれています。この三味線は、時代背景から柳川三味線とみて間違いありません。当初、番組制作スタッフはこの屏風と同じように池に舟を浮かべようとも考えたそうですが、さすがにそれは実現困難ということで、今回、林美音子さんは江戸期の京都における「もてなし・饗宴の文化」の象徴的な歴史建築である角屋(すみや)で演奏を収録されたそうです。(→ 財団法人角屋保存会ホームページ

柳川三味線とは17世紀後半に京都で柳川検校が生み出したもので、後に発展する地歌三味線に比べると棹と胴がとても細身で、また撥は小さめの大きさで先端の開きも狭く、「赤ちゃんの頬を撫でるように」繊細にこねるように奏でられる特色をもっています。深みのある低い独特のやわらかい音色は、林美音子さんから伺ったところでは、「遠音(とおね)がさす」という言葉で表現されているそうです。清らかで澄み切った濁りのない音が遠くまで通る音のことです。じつにいい言葉ですね。

「三味線」の歴史や種類、そして「地歌」について、まとめてすぐに詳しく知りたいという方は、野川美穂子さんが邦楽全般について連載しているこちらの東京書籍WEBショップ内のページ「日本音楽への招待」の第6回以降の記事をぜひご覧ください。→ Web連載「日本音楽への招待」/野川美穂子

わたしが初めて柳川三味線を聴いたのは、柳川検校作曲の「早舟」。同じ音型が少しずつ変形を重ねて繰り返されていくところに、平家琵琶や盲僧琵琶などの遠い谺(こだま)を感じ、琵琶から三味線に移り変わった時代の音の情緒、空間の趣、自然に対する感性がこの楽器の奏でる音のなかに確かに残っていると思いました。

林美音子さんのCDアルバムには、久保田敏子(くぼた さとこ)さん(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター所長)の丁寧な解説が掲載されています。少し引用します。

収録曲のなかの「飛騨組(ひんだぐみ)」は、三味線の最古の芸術歌曲「三味線組歌」の中でも再古典の「表組」七曲中の一曲で、平家琵琶に倣って最初に三味線とその音楽を創案した石村検校(?- 1642)が創出した弾き歌いによる歌曲です。

この石村検校の孫弟子にあたるのが、柳川流・柳川三味線の創始者である柳川検校(?- 1680)です。

柳川三味線は、現在は京都でのみ伝承されており、そしてまた舞妓が習得する三味線はこの柳川三味線です。京舞の舞地をつとめる三味線でもあります。なんともいえない京情緒を感じさせる響きでもあります。今年8月23日、国立劇場での『「京のみやび」 京舞と一管の調べ 井上八千代・藤舎名生』で鑑賞した、地歌「玉取海士(たまとりあま)」でも、井上八千代さんの素晴らしい舞と同時に、柳川三味線の響きも忘れがたい印象を残しました。(当日の模様は当ブログの過去記事にて→ 「『京のみやび』井上八千代・藤舎名生」

今年の11月8日、林美音子さんは京都府府民ホール・アルティで第一回の地歌リサイタルを開催し、わたしも聴くことができました。満員の聴衆のなかには冒頭にご紹介したNHKの番組の制作スタッフの方もいらっしゃいました。当日の模様は、当財団ホームページ「じゃぽ音っと」内のライブレポートのコーナーで取り上げていますので、ぜひご覧ください!→ 公演レポート「林美音子 地歌リサイタル」(じゃぽ音っと編集部)

邦楽愛好家にとっても比較的馴染みの少ない楽器の弾き手であるにも関わらず、林美音子さんの存在はこのところ徐々に注目を集め始めています。今年の第17回くまもと全国邦楽コンクールでは優秀賞を受賞。伝統音楽の次代を担う新しい若手演奏家の登場は、とてもうれしいニュースです。

こちらは、今月、聖教新聞で取り上げられた記事です。→ 〈伝統芸能〉古典に生きる 悠久の時を結ぶ新星 柳川三味線演奏家 林美音子さん(聖教新聞)

聖教新聞の文化欄に掲載される伝統音楽関連の記事は、毎回内容が素晴らしいのでお薦めです。この前も、当財団から発売した個人的には今年の邦楽界を代表するCDだと強く思っている雅楽師芝祐靖(しば すけやす)さんのアルバム『呼韓邪單于(こかんやぜんう)』と『敦煌琵琶譜による音楽』を取り上げていただきました。→ 「敦煌琵琶譜」復曲をめぐって 雅楽演奏団体「伶楽舎」音楽監督 芝祐靖さんに聞く 雅楽演奏家ゆえに読めた古代の「メロディー」(聖教新聞)

林美音子さんについては、数日前の読売新聞でも紹介されています。→ 柳川三味線の林美音子がCD(読売新聞)

1月3日、NHK総合・朝7時20分からの正月特別番組「修学院離宮」で「柳川三味線」をご覧になって興味を持っていただけたら、ぜひ当財団で発表した林美音子さんのCD『柳川三味線/林美音子(第12回邦楽技能者オーディション合格者)』を手にとってみてください。新春最初に購入するCDが邦楽というのは、きっと気分が新鮮でいいものだと思います♪


柳川三味線/林美音子(第12回邦楽技能者オーディション合格者)
VZCF-1027(CD) 3,000円+税
録音:2011年8月11、19日 ビクタースタジオ301

[収録曲]
飛騨組(ひんだぐみ) 10:34
作詞不詳/作曲:石村検校 跋歌:津田道子復元
歌・三弦:林美音子 打合せ:林美恵子

早舟(はやふね) 18:14
作詞不詳/作曲:柳川検校
歌・三弦:林美音子

都十二月(みやこじゅうにつき) 10:13
作詞・作曲不詳
歌・三弦:林美音子

京名所(きょうめいしょ) 20:02
作詞不詳/作曲:長岡勾当/萩原正吟箏手付
歌・三弦:林美音子 箏:林美恵子

林美音子さんのブログとホームページをご紹介します。

日々徒然ブログ/林美音子OFFICIAL BLOG
生田流箏曲 柳川三味線 林美音子オフィシャル・サイト


当財団で年一回、古典の演奏を継承している若手演奏家のオーディションを行なっていることは、以前に当ブログでも投稿済みです(→ 「邦楽技能者オーディション応募受付中」)。今年で第12回を数え、これまでに毎年二名、24名の合格者のCDを制作いたしました。その詳細は当財団HPの「邦楽技能者オーディション」のページにまとめられています。

これら合格者CDは、ジャケットこそ本人の顔を出さない品良く地味なものですが、いずれも中味は驚くほど瑞々しい響きで一杯。思わず聞き惚れてしまいます。加えて邦楽録音の経験豊富なスタッフと万全の録音環境での制作ということもあり、隠れた名盤揃いです。ブックレットには久保田敏子さんのご執筆で収録作品に関する詳細かつ有為な解説が付されています。

当ブログの書き手のひとりで制作担当の「うなぎ」が、今後、「じゃぽ音っと」内CD情報ページで、邦楽オーディション各アルバムについて補足コメントを追加していくと言っていますので、時々アクセスしてみて下さい。(うなぎさん、よろしく頼みますよっ)

現在、第13回邦楽技能者オーディションの募集を受け付け中。応募締切りは1月11日です。本オーディションは古典を継承する演奏家を顕彰するもの。つまり明治以降に創作された曲は除くということなので、主に近現代の曲に取り組んでいる方は対象外となります。そのため毎回応募者は箏曲地歌や尺八の方が多いのですが、ぜひ他の種目の方からの応募もお待ちしております。

(堀内)