じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

村治佳織 SACD コレクション2  part 2

6月19日に発売された同作品の中で、今回はディスク2のアルバム「アランフェス協奏曲」のライナーノーツをご紹介いたします。


アランフェス協奏曲
〈 録音:1999年12月28〜30日 発売:2000年3月23日 〉
99年、彼女のパリでの生活やその年1月の巨匠ロドリーゴとの出会いなどを収録したTV「情熱大陸」の放映、先の「カヴァティーナ」からの曲「はちすずめ」の演奏シーンをメインに、同年5月にパリで撮影された伊藤園「充実野菜」CMの放映などの影響もあり、彼女の知名度は一気に上がりました。 そんな状況下、6枚目のCDは彼女の快諾を得て、ロドリーゴとの出会いで、より演奏に自信を得たアランフェス協奏曲を中心にギターとオーケストラの名曲を収録することにしました。 結果として、3年間の充実した実り多いパリ留学を6月に終えた彼女は、レコーディングのために十分な準備期間を取り、この年12月末、山下和史氏の指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団とアランフェスのセッションに臨んだ。 今までに、彼女はギター協奏曲の中で世界一ポピュラーなこの曲を何回演奏してきたのだろうか? 日本、イタリアのオーケストラと、しかも、イタリアでもおそらく数えきれないほどであろうその「アランフェス協奏曲」をついに録音する時が来た。 実は、この曲は音の小さなギターと大きなオーケストラとのバランスを取ることが極めて難しく、ご承知のように、演奏会ではこの難問をギターにPAを使うことでクリアーしている。 しかし、生音に勝るものはない。それだけに良い録音が少なく、ハードなレベルの曲である。録音スタッフは、このレコーディングを成功させるべく、音のクォリティーを決定づけるホールに響きの良さでトップクラスの墨田トリフォニーホールを選んだ。 更に、先の難問をクリアーするため、舞台と客席の間にある通常オペラ上演では床を下げ、 そこにオーケストラが入る、所謂オーケストラピットを(このホールだからできたのだが)舞台とフラットになるまで持ち上げた。 このようにしてギターのためだけの特別ステージが、舞台前面に出現した。 これにより、ギターの音が非常に大きく、豊かになり、オーケストラとの理想的なバランスが生まれた。 また、レコーディングだからこそ出来たことであるが、彼女を客席に背を向けさせオーケストラと対峙させた。 結果、彼女とオーケストラの全ての奏者たちは、互いの表情や呼吸を間近で感じながら、理想的なコラボレーションが生まれたように思う。 こうして、入念なリハーサルを交えながらの年末3日間のレコーディングは指揮者のもと、オーケストラ全員が彼女の演奏と見事に呼応し合って、実に豊かなニュアンスに富んだ演奏が繰り広げられ、最新鋭のデジタル機材を通して収録された。 奇しくも、このレコーディングは、この年の7月に97歳で亡くなった作曲者への追悼になってしまったが、彼女にとって、この99年は、まさにロドリーゴに始まり終わった、生涯忘れられない年になったのではないだろうか。完成したCD「アランフェス協奏曲」は新聞、専門誌から極めて高い演奏評価を得ただけでなく、録音においても2000年の日本プロ音楽録音賞を受賞、各オーディオ紙でも絶賛された。
(野島友雄)

(Yuji)