じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

三木稔メモリアルシリーズ

 

作曲家・三木稔さんが創設した、邦楽器を用いた新しい芸術音楽を作曲・演奏する創造集団「オーラJ」の第28回定期公演が、7月11日(水)に紀尾井小ホールで開催されます。昨2011年12月8日に逝去された芸術監督の三木稔さんを追善し作曲家としての功績を確認するシリーズ(全6回)の第一回目となります。


オーラJ 第28回定期演奏会
三木稔メモリアルシリーズ” vol.1 (全6回)
三木稔が日本楽器へ託したもの」

日時:2012年7月11日(水) 開場18:00|開演18:30
場所:紀尾井小ホール
プログラム:
ソネットI  三木稔作曲
 尺八I:山口賢治/尺八II:坂田誠山/尺八III:関一郎
芽生え  三木稔作曲
 新箏:藤川いずみ
四群のための形象  三木稔作曲
 1)文様(あや)
   箏I:松村エリナ/箏II:篠塚綾/十七絃箏:桑子裕子
 2)居機(いき)
   龍笛山田路子*/篠笛:澤田由香*/尺八I:山口賢治/尺八II:阿部大輔
 3)(くせ)
   三絃I:野澤徹也/三絃II:鶴澤三寿々*/琵琶:櫻井亜木子
 4)(とう)
   打楽器I:仙堂新太郎*/打楽器II:片岡寛晶
奔手  三木稔作曲
 三絃:野澤徹也
流琵  三木稔作曲
 琵琶:櫻井亜木子
希麗  三木稔作曲
 尺八:坂田誠山/新箏:木村玲子
《追悼・三木稔
邦楽器の為の巫女舞  [委嘱新作] 今井重幸作曲
 指揮:今井重幸*/笛:山田路子*/尺八:坂田誠山、山口賢治、関一郎、阿部大輔/三味線:野澤徹也/琵琶:櫻井亜木子/箏:松村エリナ、篠塚綾、桑子裕子/十七絃:小林道惠/打楽器:仙堂新太郎*、片岡寛晶
(* =助演)

入場料:一般 4,000円 友の会 2,500円 全自由席
主催:邦楽創造集団 オーラJ
チケット問い合わせ先:オーラJ事務局
http://www.ora-j.com/



皆様よくご存じの三木稔さんのことを、ここであらためて記す必要もないでしょう。邦楽器を演奏する方ならばその楽器によって、三木さんの音楽との関わりかたには様々な濃淡が生じるかもしれません。しかし、二十絃箏の開拓、和楽器合奏の展開、日本とアジアの伝統楽器の共演の可能性を広げたという点で、演奏者はもとより、聴き手にとっても、やはり三木さんの存在は忘れることのできない大きなものだったといえます。

私が最初に三木さんの作品を意識したのは、少し変わった経緯でした。1980年(昭和55年)に、雑誌『音楽芸術』9月号の付録としてついていた「まぼろしの米(Visions of Rice)」という、江戸時代の東北地方で発生した天明の大飢饉を題材とした、秋浜悟史さんが台詞を作った、二十絃箏の歌い語りによる作品の楽譜を見たのが、三木さんの音楽との出会いだったのです。口にできるものはすべてを食べ尽くし、激しい飢えのために米の幻覚を見ながらさまよう親子。ついに両親は子を崖から突き落とす。だが、墜落する途中で藤づるに引っ掛かり、「けだものじみた叫びをあげて、子は救いを求める」。「その声が親を刺す」。しかし、数日後、子は力つきて谷間(たにあい)へ落ちていく。父と母はそこへ降りて、河原の石を焼いて、死んだ子を、食う。………

このスコアを読みながら、それより少し前に出会っていた、武田泰淳の「ひかりごけ」(團伊玖磨がオペラを書いている)や、三善晃の児童合唱とピアノのための「オデコのこいつ」といった、やはり飢餓という極限状況の人間を主題とした壮絶な作品と共に、この「まぼろしの米」は、私の心奥に深く刻まれました。

その後、コロムビアから発売された4枚組LP箱『日本音楽集団による三木稔の音楽』は何度も聴きましたし、カメラータ・トウキョウから井阪紘さんのプロデュースでリリースされたアルバム群、オーケストラと邦楽器合奏が共演した『鳳凰三連』〔「序の曲」(1969)/「破の曲」(1974)/「急の曲」(1981)〕や二十絃箏のための多くの作品、あるいは素敵な編曲もの──野坂惠子さんの独奏によるイギリス民謡集など──でも、三木さんの音楽には随分と接していますが、振り返ってみると私のなかでは、あの「まぼろしの米」が、作曲家・三木稔を象徴する原風景として今でも強烈に焼きついています。どうも最初の出会いのインパクトが強すぎたようです。ほかには、「東から」(1979)という、インドネシアのペロッグ音階を使った二十一絃箏の曲もとても印象深く、好きな作品。あとは、忘れてはいけない名曲「マリンバ・スピリチュアル」ですね。(私はこの一年以内ですらコンサートでこの曲を二度聴いていますが、これほど世界中で演奏回数の多い日本の現代曲というのも珍しいかも?)

オーラJの演奏会を私が聴きに行ったのは、最初は2004年に亀戸のカメリアホールで開催された第14回定期公演でした(これが音楽評論家の西耕一さんによる第一回目のプロデュース)。次は大分開いて、2007年の津田ホールでの第20回定期「三木稔喜寿記念」で、コンサートの最後に客席と舞台全員で配られた譜面を見ながら「あしたまた」を歌いました。よく覚えています。三回目が、昨2011年1月に大和田さくらホールで開催された第26回定期で、このときは、傘寿を迎えた三木さんの作品がメインを飾り、高橋明邦さんの指揮(と太鼓)で、「古代舞曲によるパラフレーズ」(1965‐66)と「凸──三群の三曲と日本太鼓のための協奏曲」(1970)という名曲が揃って演奏されたこともあり、大変印象深いコンサートでした。このときのパンフレットの扉には、芸術監督である三木さんの力強い文章が掲載されています。

オーラJが三木さんの意志を継承し、さらなる創造の道へと踏み出す今回の公演は、聴き逃せないものとなりそうです。そして今井重幸さんの新作にも期待が高まります! 今井重幸さんは1933年生まれ。作曲以外に“まんじ敏幸”の名で舞台演出・構成などでも活躍した才人。私は1981年7月16日にNHKホールで開催されたフラメンコの長嶺ヤス子さんによる創作舞踊『娘道成寺(ニューヨーク壮行公演)──前年1980年の芸術祭大賞受賞──を観て、その踊りに強烈な印象を受けると同時に、長唄の魅力──音楽監修は今藤政太郎さん──にも開眼したのですが、手元にある当日のパンフレットを見ると、〈企画:大山允佑/構成:長嶺ヤス子/演出・振付:池田瑞臣/美術:朝倉摂/制作:神田聡/制作協力:今井重幸、スタジオ・アルス・ノーヴァ〉とあり、今井さんもこの公演に関わっていたことが分かります。

三木稔ホームページ
オーラJホームページ


三木稔さんは、日本音楽集団、三木オペラ舎(元 歌座)、結アンサンブル、オーケストラ アジア、オーラJ、アジア アンサンブルなど多くの演奏団体の設立に関わり、邦楽器やアジアの楽器による創造活動にオーガナイザーとして深く携わってきました。日本伝統文化振興財団からは、この内、<オーケストラ アジア>のアルバムを1枚発行しています。1997年10月27日にBunkamuraオーチャードホールにてライブ録音された、『オーケストラ アジア』(VZCG-244)で、ここには三木さんが作曲した中国の琵琶(ピパ)とオーケストラのための作品「琵琶協奏曲」(琵琶独奏:シズカ楊静[YAN Jing])が収録されています。



そして日本音楽集団の演奏は、1970年に録音・発売され2008年に当財団で完全復刻した『[復刻]響——和楽器による現代日本の音楽』(VZCG-8405〜7)〔CD3枚組〕収録の、八村義夫作曲「しがらみ 第2」(1970)、長澤勝俊作曲「組曲〈人形風土記」(1966) で聴くことができます。このアルバムは、三木稔さんの作品は収録されていませんが(これは当時他のレーベルから三木さんの重要作がすでにレコードで発売されていたので、あえて選曲されなかったという事情があったため)、現代邦楽の精華を記録した名盤として、日本の音楽の歴史を振り返ったときに将来必ず参照されるマスト・アイテムです。上記の2作品以外に収録されているのは下記の作品。清瀬保二作曲「日本楽器のための四重奏曲」(1965)、伊藤隆太作曲「六重奏曲」(1966)、小山清茂作曲「和楽器のための四重奏曲 第1番」(1962)、清水脩作曲「三つのエスキス」(1961)、間宮芳生作曲「四面の箏のための音楽」(1957)、入野義朗作曲「尺八と箏の協奏的二重奏」(1969)、石桁眞禮生作曲「箏のための組曲」(1957/rev.1969)、武満徹作曲「蝕[エクリプス] (琵琶と尺八のための)」(1966)、諸井誠作曲「対話五題 (二本の尺八のために)」(1965)、廣瀬量平作曲「二つの尺八のための〈アキ〉」(1969)、牧野由多可作曲「太棹協奏曲」(1966/rev.1970)。演奏は日本音楽集団、邦楽4人の会、沢井忠夫、山本邦山、ほか。

(堀内)