じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

映画「裸の島」/大野松雄Live@神戸

昨日のブログでご紹介したCD『林光 [パリ1923]/姫田大(フルート)、ヴィム・ホーグヴェルフ(ギター)、新井純(歌・朗読)』の一曲目は、新藤兼人監督の名作「裸の島」(1960)の主題曲です。ご存知の方も多いと思いますが、映画「裸の島」にはセリフが一切ありません。この映画では、林光さんの大変に印象的な音楽以外に、生活のなかの音、情景の音がとても重要な役割を果たしていますが、この「音」に関わる仕事を担当したのが大野松雄さんでした。

前作「第五福竜丸」(*)の興行的失敗もあって、新藤監督によれば「裸の島」は「俳優もスタッフもノーギャラだった」そうです。商業的な要素を捨て去り、映像だけで人間をどこまで描き切ることができるかに挑戦した作品ですが、セリフを使わないとなると「音」が重要になります。しかもこの映画は瀬戸内海の小島に船で来る日も来る日も水を運んで生きる暮らしを描いているので、多彩な水音を作り出す必要があります。(当然ですが、撮影時に音を一緒に録音して入れるわけでなく、音の一切入っていないフィルムに後から個々の音を作って入れていくわけです。)音楽を依頼された林光さんは、この「音」の仕事は普通の人では出来ないと考えて、大野松雄さんを推薦したのだそうです。

*第五福竜丸は、昭和29年(1954年)3月1日に太平洋のマーシャル諸島にあるビキニ環礁で、アメリカの水爆実験で発生した死の灰によって被害を受けました。同船は廃棄される予定でしたが、新聞への投書がきっかけで保存を要望する市民運動が起こり、その結果、現在は江東区夢の島公園内に展示されています。→ 「東京都立第五福竜丸展示館」

大野さんは、まずは撮影現場を実際に見に行ってその土地の空気を知りたいと希望しますが、プロデューサーは厳しい予算事情もあったのか「必要ない」と断ります。「それなら自費で行く」と言う大野さん、結局は旅費も出たそうですが、尾道の朝の情景、魚を売るオバちゃんたちの声などを録音して、それをさりげなく画面に入れておいたところ、新藤監督が大いに気に入ったそうです。実際に現地に出かけて音を作っている姿勢に「そうでなくっちゃ」と快哉を叫んだとか。

この映画は、林さんの音楽と現実音だけしか音の要素がないので、音づくりは通常よりも過酷な作業で、まさしく大野さんだからこそ可能だった仕事と言えるかもしれません。当時、独立系の映画の音のダビングは目黒スタジオの二階で作業をしていたそうですが、NHKの効果団の人たちを呼んで一週間から十日間かかったそうです。特にさまざまな水の音を作るのが大変で、水を入れた大きな器を何度も激しく揺らしたりして、スタジオのリノリウムの床が全部はがれてしまったとのこと(!)。こうしたエピソードを大野松雄さんから伺って「裸の島」を観ると、また印象が違ってきます。

ところで映画「裸の島」に登場する大野さんのクレジットですが、なんと(!)お名前が誤植で「効果:大野松男」となっています・・・うううん、ちょっとそれは・・・(悲) 映画のラストシーンがYoutubeにありました。


この映画「裸の島」は、今月、川崎市市民ミュージアムでの「太郎の愛した映画たち 岡本太郎生誕100年記念」)のプログラムの中で上映されます。試写の段階では「裸の島」の最後のシーンで入っていたテロップを、岡本太郎さんが「説明的すぎるから、あれはないほうがいい」と言って、それで新藤さんがすぐにカットしたという経緯もあったようです。

なお、今回のプログラムの中には、亀井文夫監督が放射能の恐ろしさを科学的に描いた画期的な作品「世界は恐怖する 死の灰の正体」(1957年、79分)も含まれています。大野松雄さんはこの作品の音の編集を担当されています。本作は原発事故に直面している今こそ、多くの人にご覧いただきたい映画だと思います。(ここで全編を視聴できます→


・・・と、話は蜿々(えんえん)とつながっていくわけですが、その大野松雄さんのライヴが今月18日(月・祝)に神戸のスペース・オーで行われます。2009年草月ホール以来のオープンリール・テープデッキ・パフォーマンスです。大野さんのトーク・セッションを含めて詳細未定とのことですが、とにかくこのイベントは見逃せませんね! さあ、すぐに予約の電話を!

映画『アトムの足音が聞こえる』公開記念
「未来を鳴らす/音の魔術師・大野松雄
日時: 2011年7月18日(月・祝)15:00 START予定
場所: space eauuu(スペース・オー)
     神戸市中央区元町通2-6-10ミナト元町ビル3F
料金: ¥2000 (w/1drink)
出演: 大野松雄、RUBYORLA、monospin、and more?

(堀内)