じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

鈴木輝昭・新作CDと演奏会

鈴木輝昭作曲による新しい合唱作品集のCDが3月2日に発売となります。全4曲ともこのCDのための新録音です。諸事情により制作に時間がかかっておりましたが、その分内容の濃い充実したアルバムとなっています。当財団の合唱CDシリーズである「日本合唱曲全集」の最新作で、鈴木輝昭さんの作品集としてはこれが早くも4枚目。同じ作曲家で4枚というのは他に三善晃さんだけです。これを見ても、今、鈴木輝昭さんの作品がいかに多く歌われ、優れたレパートリーとして定着しているのかが分かります。

この二人の作曲家は師弟関係にあたりますが、どちらの作る曲もけっして歌いやすい作品ではなく、むしろ表現する困難への挑戦と言えるハードルの高いものです。日本の合唱音楽はアマチュアによって発展してきましたが、いまや中学生や高校生のレベルでも技術的にも精神的にも相当に難度の高い音楽表現が実現できるようになり、深い芸術性を湛えたレパートリーが求められています。秋にテレビで中継されるNHK全国学校音楽コンクールや、あるいは日本合唱音楽コンクールに接すれば、そのことは一目瞭然です。毎年の自由曲で鈴木輝昭さんや三善晃さんの芸術性の高い作品群が多く選ばれているのは、それだけ歌う側が要求するレヴェルも上がってきている証拠でしょう。

ところで、NHKのコンクール、特に中学の部で、このところ肝心の課題曲が平明なポップ・ソングになっているのは疑問に感じます。おそらくは全国の参加校が難易度に関わらずに歌える作品を、という趣旨なのでしょうが、どこかしら、運動会で全員が手をつないで一緒にゴールする風潮を想起させます。このブログで紹介したガンダムの富野監督と鈴木輝昭さんの対談で、鈴木さんがこうした傾向へ警鐘を発しているのを読み、深く同感した次第です。この対談は非常に内容が濃く、合唱音楽に関心がある方にはお奨めです!→ じゃぽ音っとブログ「鈴木輝昭×富野由悠季対談」

『頌歌(ほめうた) 鈴木輝昭 作品集4』(VZCC-98)

竹取物語
無伴奏混声合唱のための
テキスト:「竹取物語」より
(1. いまはむかし 2. 天竺に在る物も 3. おのが身は、この国の人にもあらず)
 ;福島県会津高等学校合唱団/指揮:山ノ内幸江

五つのエレメント
混声合唱とピアノのための
詩:谷川俊太郎
(1. 木 2. 水 3. 火 4. 光 5. 地)
 ;福島県立喜多方高等学校音楽部/指揮:佐藤朋子/ピアノ:鈴木あずさ

源氏幻奏
源氏物語」による無伴奏混声合唱のための譚詩
テキスト:「源氏物語」より
(1. 夕顔 2. 若紫 3. 藤壺
 ;千葉県立幕張総合高校合唱部/指揮:山宮篤子

古事記頌歌こじきほめうた)》
混声合唱とピアノのための
テキスト:「古事記」より
(1. 宇受売 ―天の岩屋戸―i 2. 宇受売 ―天の岩屋戸―ii 3. 湏佐之男 ―八俣の大蛇―i 4. 湏佐之男 ―八俣の大蛇―ii)
 ;島根県斐川町立斐川西中学校合唱部/指揮:浜崎香子/ピアノ:鈴木あずさ

鈴木輝昭さんのライナーノーツから一部を引用します。

中学混声合唱と高校混声合唱は、それぞれが特有の、確立した表現領域を持っている。声や心身の成長過程としての十代ではなく、この世代の声そのものが放つ魅力、独自の指向性、高い純度の実現力が、大きな芸術的価値を生み出している。中学生、高校生というジェネレーションが最も輝き、そのリアリティが色濃く刻まれる世界、そこから醸し出される属性や固有の発言を、音楽は指向している。作品は、この世代の声と感性によって描かれることで本質的な像を結び、その音楽的内容を極めることによって、この世代の合唱は絶対的な光を帯びる。中学・高校の混声合唱に向けられた音楽の創造、共同作業の意味と必然はここにある。

解説書には上に引用した部分を含む鈴木輝昭さんの「創造と共同」というテキストの他、各曲の解説と全詞章も掲載されています。


続いて、鈴木輝昭さんのプライヴェート・コンサートのお知らせです。このたび第一歌曲集《“青春詩篇”による7つの歌》のスコア()がカワイ出版から刊行されたのを記念して、ご子息の鈴木皓矢さんのチェロや奥様の鈴木あずささんのピアノ、作曲の門下生による新作発表などを含む手作りのコンサートが開催されます。

BEAU SOIR 2011 美しき夕べ
2月18日(金)けやきホール(古賀政男音楽博物館1F、220席)
18:00開場 18:30開演 全席自由、入場無料

《“青春詩篇”による7つの歌》は歌手の赤坂有紀さんのために1997年、2004年、2008年、2009年と書き継がれて完成した新川和江さんの詩によるピアノ伴奏つきの歌曲集です。2009年6月10日の夜、代々木ムジカーザでの全曲初演の場に、私は幸運にも立ち会うことができました(歌:赤坂有紀、ピアノ:須永真美)。キラキラと光を反射し緩やかに流れる川のような優しいピアノの向こうに、透明なリリシズムが自らの迷いと憧れに背中を押されながら飛翔する、まさに青春の声が充溢した音楽でした。会場には詩人・新川和江さんもお見えになっていました。あの曲がもう一度聴けるというだけで本当に嬉しい気持ちになります。今回の演奏会のプログラムは次のようになっています。

リヒャルト・シュトラウス:ブレンターノの詩による6つの歌 作品68より 1. 夜に 4. あなたの歌がわたしの心に響いたとき
面川倫一増井哲太郎田豊:新作歌曲
 ソプラノ:今野沙知恵 ピアノ:矢崎貴子

ラフマニノフ:練習曲集《音の絵》作品33より 第4番
鈴木輝昭:ピアノのための“ピグマン デュ ソン”(2011)
 ピアノ:鈴木あずさ

コダーイ無伴奏チェロ・ソナタ 作品8
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
 ヴァイオリン:鍵冨弦太郎 チェロ:鈴木皓矢

鈴木輝昭:“青春詩篇”による7つの歌
 ソプラノ:今野沙知恵 ピアノ:鈴木あずさ

この告知は鈴木輝昭さんからのお許しを得ています。お時間のある方は、ぜひこの素敵なプライヴェート・コンサートにお運びください。

鈴木輝昭(すずき・てるあき)プロフィール
1958年生まれ。桐朋学園大学作曲家を経て同大学院研究科修了。三善晃氏に師事。第46回(室内楽)及び第51回(管弦楽)日本音楽コンクールにおいて、第1位、第2位を受賞。1984年、日本交響楽振興財団第7回作曲賞。1985年及び1987年、旧西ドイツのハンバッハ賞作曲コンクールの管弦楽室内楽両部門にて、それぞれ1位を受賞。1991年、村松賞。1994年、<アール・レスピラン>同人として、第12回中島健蔵音楽賞受賞。2001年、宮城県芸術選奨受賞。代表作に、二群の混声合唱管弦楽のための「ヒュムノス」(第16回民音現代作曲音楽祭委嘱・1990)などがある。日本作曲家協議会会員。アール・レスピラン同人。桐朋学園大学非常勤講師。

(堀内)