じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

地歌『残月』のご紹介

本日は、地歌『残月』(じうた・ざんげつ)をご紹介します。
地歌『残月』は、作詞者不明、作曲者は、天明年間(1781〜 )以降、大阪で活躍した峰崎勾当(みねざきこうとう)です。
峰崎勾当には名曲が多く、2月12日のブログでも『雪』をご紹介しましたが、その他にも『吾妻獅子』『越後獅子』などがあります。その中でもっとも代表的な曲として知られているのが、この『残月』です。
峰崎勾当の門人で、大阪宗右衛門町の「松屋某の娘」という才媛が、若くして亡くなったので、その追善の曲として作られたものと伝えられています。その法名「残月信女」にちなんで、この曲名がつけられたとも言われています。

【歌詞】
磯辺の松に葉隠れて 沖の方へと入る月の 光や夢の世を早う
覚めて真如の明らけき 月の都に住むやらん
今は伝手(つて)だに朧夜の 月日ばかりはめぐり来て


その名曲ゆえか、「箏・三弦」の合奏の他、「三弦と三弦」の合奏があり、またその中でも、箏の手付けの違いで「京残月」「大阪残月」「名古屋系」があり、また三弦の手付けでも「大阪系」「九州系」があったり、また尺八が加わって「三曲合奏」になったり。
さらには、手事(てごと)と呼ばれる器楽の部分は、五つの部分に分かれていて、一段と二段、三段と四段は合奏できるようになっています。(これを段返しといいます。演奏時間がないときは段返し!でもちょっと難しい?)

『 磯辺の松の葉にかくれ、ついには沖の方へ入ってしまう月のように、あなたはこの夢の世を早くも去ってしまい、迷うことのない月の都に住んでいることであろうが、残されたわれわれには、今はたよりさえおぼろになって、いたずらに月日ばかりがめぐってくる。 』(箏曲地歌大系解説 平野健次著より)
という内容です。

5月31日の弊財団主催、チャリティ公演で、『残月』が演奏されます。演奏者の藤井昭子さんのお祖母様にあたる阿部桂子師は、この曲は「三回生まれ変わらなければ完璧には弾けない」とおっしゃっていたそうです。三回!・・。この曲の歌ですが、歌節が簡素であるのに、女性の音域にはちょっと低い「C」の音からはじまり、一番低いところで、下の「G」、一番高いところで、上の「G♯」、約2オクターブの音域があります。ですので、男性の人が歌い出しを歌い、途中で女性の人に変わるというようなことも。この間お会いした方は、「きのう風邪ぎみで、低い声が出そうだったから、残月練習しちゃった。」とおっしゃっていました(のどによくなさそうな・・・)。器楽の部分も、三弦の「さわり」のつく音を一音一音響かせるような節付けが多く、月の光を思い出させるような旋律だと思います。

阿部桂子師が演奏する『残月』が収録されているCDはこちら!
「日本ビクター株式会社 創立70周年記念 — 箏曲地歌大系 (60枚組)」

(大型セットですみません・・)

本日もシリーズ第6回目「合唱指揮者 木下保先生」をお休みしてしまいました。次回こそは!

(制作担当:うなぎ)