じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

江戸演劇に生きた人々 特別公演

紀尾井ホールの「江戸演劇に生きた人々 特別公演 三代目中村歌右衛門」に行ってきました( 1月27日(金) 18:30開演  紀尾井小ホール)。
「江戸演劇に生きた人々」は紀尾井ホール主催公演の新しいシリーズで、チラシによれば、「江戸という時代の演劇の歴史に大きく寄与した人々を振り返り、関係の深い音楽をたどる新シリーズ」ということです。第1回は4月21日で「出雲のお国」がテーマだそうですが、今回はそれに先立つ「特別公演」として三代目中村歌右衛門が取り上げられました。
この日のプログラムは二部構成で、まず演劇評論家渡辺保さんのお話で「三代目中村歌右衛門について」。第二部では、地唄舞の神崎えんさんの「江戸土産(みやげ)」(唄と三弦は富山清琴さん)、そして林家正雀さんの落語で人情噺「男の花道」が披露されました。

歌右衛門といえば昭和を代表する名女形、六代目中村歌右衛門がすぐに浮かぶのですが、江戸時代、文化文政のころに活躍した三代目は、いわゆる女形ではなかったそうです。渡辺保さんのお話によれば、小柄で悪声、器量もわるいと、どう見ても役者としては悪条件をそなえながらも、上方でたいへんな人気を博し、江戸にも三度下って興行は大成功を収めたそうです。
人気の秘密を様々に考察されていましたが、大衆の心をつかむ感覚にすぐれ、現代にも受け継がれている新演出を編み出したこと、役柄の領域をこえてなんでも演じたということを挙げていました。本来は敵役、立役の人ですが、女形の役もこなしたそうです。
地歌の「江戸土産」は、変化(へんげ)舞踊を得意とした三代目歌右衛門が七役をつとめて江戸で評判になった踊りを、大坂に帰って「お土産狂言」として上演したのにちなんで作られた曲。そんな曲が作られるほどこの凱旋公演が話題になったということですね。チラシの手前の絵は口上の姿(たしかに二枚目とは言いがたい)ですが、その後ろに描かれているのは歌右衛門の七化(ななばけ)で、美しい傾城(けいせい)から鍾馗(しょうき)さままで、老若男女を演じ分けています。
そして最後は落語「男の花道」。これは三代目歌右衛門と若い医師の交流を描いた人情噺で、たっぷりと聞かせました。内容については、こちらのサイトに詳しい説明があります。→「落語の蔵」男の花道〜名医と名優
「男の花道」は初めて聞いたのですが、講談や浪曲でも有名で、映画にもなったそうです。昭和16年長谷川一夫が主演した映画では演出上、歌右衛門女形とされたとのこと。
三代目中村歌右衛門についてなんの知識もなく、なぜ歌舞伎俳優と地唄舞と人情噺の組み合わせ?と思いながら伺ったのですが、渡辺保さんの、まるで三代目の舞台を観てきたかのような話しぶりに興味津々。そして、この異彩を放つ名優にちなむ地歌や落語が現代にいたるまで残って愛されていることを知り、急に身近に感じられました。江戸と現代はつながっているのですね。
紀尾井の「江戸演劇に生きた人々」シリーズ、今後が楽しみです。

(Y)