じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

ピーター・ブルック、添田唖蝉坊、壁画洞窟/土取利行

  

今週月曜の当ブログ「縄文聖地巡礼とお水取り」の記事内で、土取利行さんのアルバム『縄文鼓――大地の響震/土取利行』(VZCG-686)が紹介されていましたが、土取さんには縄文の音世界についての著作もあります(右の書影)。『縄文の音』は、青土社から増補新版が刊行されています。目次内容はこちら → 。下記は、本の帯に記されているコピーです。

よみがえる始原の響き
縄文人はどんな音を奏で、その響きにどんな祈りを託したのか? 音楽の始原を求めて、世界の民族音楽を訪ね歩いた異能の音楽家が、丹念な資料探査とみずみずしい感性と洞察で解きあかした、縄文音楽のラビリンス。十年余にわたる探求が導きだした驚くべき縄文像。


日本の土壌の多くは酸性なので、土質がアルカリ性のヨーロッパと比べると、古い時代の資料が残りにくい性質があります。そのため石笛(いわぶえ)を除いて楽器が出土することはなく、縄文時代の音楽については、これまであまり議論されることがありませんでした。しかし、土取さんは世界各地の先史時代の生活を留める少数民族における音楽のすがたを観察し、その原点に「うた」があったはずだと推察します。そして、これこそ土取さんの観想力と実行力の凄いところですが、縄文土器の内、使用用途が不明だった有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)を、世界各地の民族音楽を実地に訪ねた経験から、「太鼓だったに違いない」と直感し、日本の縄文学の泰斗として知られる國學院大學の小林達夫教授の監修の下、土器について、そして縄文人の生活や精神世界について深く学び、各地の縄文遺跡を訪ねて専門家と交流し、10年をかけて実現したのが「縄文鼓(じょうもんこ)」の演奏だったのです。

土取さんは、音楽とは、楽器であれ音そのものであれ、生命の犠牲(サクリファイス)の上に成立した、自然や宇宙や祖先と向き合ったいわば宗教の起源とも通じる始原の力に触れるものだという考えをお持ちです。したがって、縄文鼓の演奏もきわめて限られた機会を除いては行われていません。

土取さんの目には、わたしたちが普通に思い描く「音楽」というものは、ほんのここ数百年ぐらい(いや、数十年か)の文化が生み落としたものでしかないと映っています。土取さんが相手にしているのは、人間にとっての音楽の起源です。さらに古代へ、さらに始原へと遡っていくことを通じて、土取さんはこれまでに音楽の本源をもとめてさまざまな活動を続けてこられました。詳しくは土取さんのホームページ「土取利行の音楽世界」をご覧ください。またこれまでの活動記録を、立光学舎(りゅうこうがくしゃ)によるアーカイヴというかたちで、Youtubeに多数投稿されています。


  

2008年に、上記の『縄文鼓』と同時にリリースされたのが、『銅鐸――黄金の鼓動』(VZCG-684)、『サヌカイト――古代石の自然律』(VZCG-685)、『瞑響・壁画洞窟――旧石器時代のクロマニョン・サウンズ』(VZCG-687)の三作品です。

この内、『瞑響・壁画洞窟』は、土取さんがフランスの壁画洞窟の奥深くで体験した音宇宙の衝撃をもとに、専門の考古学者の特別な許可を得て実際に壁画洞窟の内部で鍾乳石や石筍や鼻笛などを演奏した音を収録した、人類最古の音楽の起源に迫ったものです。土取さんはこのCDと同時に青土社から著書『壁画洞窟の音――旧石器時代・音楽の源流をゆく』を出して、こちらも大きな話題を呼びました。以下のリンク先で、港千尋多摩美大教授)、小柳学、田中純(思想史家)、藤原智美(作家)、宇佐美圭司(洋画家)、青澤隆明(音楽評論家)の各氏と日経新聞掲載の書評を読むことができます。→ 「書評」(土取利行ホームページ内)



クーニャック壁画洞窟の鍾乳石演奏/ 土取利行 Toshi Tsuchitori/ prehistric music



土取さんは長い間、世界最高峰の劇団と称されるピーター・ブルック国際劇団の音楽監督を務め、活動の拠点をパリに置き、そこから世界各地の公演ツアーに出かけていたのですが、現在は劇団が解散となり、日本を拠点に活動されています。年に数回ですが、東京でも土取さんの公演を体験できる機会があります。今週末から来週にかけて、東京で土取さんのイベントが集中して開催されるので、以下に簡単にご紹介いたします。




2012年3月3日(土)14:30
上映会+レクチャー
マハーバーラタピーター・ブルック監督作品)
特別上映+トーク <ゲスト:土取利行>
場所:東京日仏学院 エスパス・イマージュ
入場無料(事前申込み不要)
http://www.institut.jp/ja/evenements/11540

詳細は、土取さんのブログ「音楽略記」の次の記事をご覧ください。(参考Youtube動画も紹介されています)→ 【3月のイヴェント案内】1 ピーター・ブルック「マハーバーラタ」上映とトーク




2012年3月4日(日)開場16:30/開演17:00
土取利行の邦楽番外地
添田唖蝉坊・知道を弾き唄う」
出演:土取利行(唄・三味線・話)
会場:吉祥寺Sound Cafe dzumi(0422-72-7822)
会費:2,500円(1ドリンク付き)
※席に限りがありますので予約者優先にさせていただきます。
http://www.dzumi.jp/info/2012/0304.html

詳細は、土取さんのブログ「音楽略記」の次の記事をご覧ください。(参考Youtube動画も紹介されています)→ 【3月のイヴェント案内】2 「土取利行の邦楽番外地/添田唖蝉坊・知道を弾き唄う」

なお、この土取さんのブログ内に、昨年、馬喰町ART+EATで行われた土取さんの唖蝉坊を唄うイベント(参照;当ブログ過去記事→ <土取利行コンサートのお知らせ>)をお聴きになった、皆川学さん(元NHKプロデューサーで、土取さんが出演した「壁画洞窟」の番組も制作担当された)がお書きになったエッセイ「ああ碑文谷の踏切番」が掲載されています。素晴らしい文章なので、ぜひご一読いただければと思います。




2012年3月8日(木)開場18:30/開演19:00
土取利行+港千尋
対談・「壁画洞窟が語りかけるもの」
出演:土取利行、港千尋
会場:馬喰町ART+EAT(03-6413-8049)
会費:予約制 3,000円(ワンドリンク付き)
※前日よりキャンセル料が発生致します。ご了承くださいませ。
http://www.art-eat.com/event/?p=1747l

詳細は、土取さんのブログ「音楽略記」の次の記事をご覧ください。(参考Youtube動画も紹介されています)→ 【3月のイヴェント案内】土取利行・港千尋対談「壁画洞窟が語りかけるもの」


ちょうど3月3日(土)から、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』が、3週間限定でロードショー公開されます(東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫、福岡、北海道)。

インタヴューヴェルナー・ヘルツォークさん(『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』監督)/聞き手:松丸亜希子(Cultural Search Engine「Realtokyo」より)


この映画は1994年に南フランスで発見されたショーヴェ洞窟を3D技術で撮影したものです。ショーヴェには3万2千年前に描かれた洞窟壁画が残されていて、考古学では重要な場所ですが、港千尋さんの著作『洞窟へ ―心とイメージのアルケオロジー』せりか書房 2001年)でも大きく紹介されていました。以前この本を読んだとき、掲載されていたカラー写真図版を見て陶然となりました。いや、戦慄が走ったといったほうが近いかもしれません。港さんのこの本もお薦めです。


(堀内)