今週の月曜日(4月30日)、横浜能楽堂で開催された「琉球芸能 本土に咲く華々」を観て参りました。5月15日には沖縄の日本復帰40年を迎えます。それを記念しての特別公演です。今回は主に本土で活躍する沖縄出身の伝統芸能の演者の方々の出演で、雑踊・民俗舞踊から、新作の琉球舞踊、狂言小舞、琉球古典舞踊の女踊まで、多彩なプログラム。3時間近い長い公演でしたが、じつに魅力的な舞台を堪能させていただきました。素晴らしい内容に、満員の客席からも大きな拍手。この日は秋篠宮妃もご鑑賞されました。
雑踊「鳩間節(はとぅまぶし)」 平良豊子
民俗舞踊「京太郎(ちょんだらー)」 児玉清子、児玉由利子、児玉絹枝
琉球箏曲「愛し思童(かなしうみわらび)」 「遊びジャンナー(あしびじゃんなー)」 名嘉ヨシ子
〔笛:宮城英夫 胡弓:又吉真也〕
雑踊「なりく踊(なりくうどぅい)」 児玉小百合、児玉恵美子、児玉紀子、児玉豊子
【休憩】
狂言小舞(新作)「江戸上り若衆(えどのぼりわかしゅ)」 山本東次郎
作詞:大城立裕、型附:山本東次郎
地謡:山本俊則、山本泰太郎、山本則孝、山本則重、山本則秀
創作舞踊(新作)「浅黄の帷子(あさぎのかたびら)」 宮城能鳳
作詞:馬場あき子、選曲:比嘉康春、作舞:宮城能鳳
【休憩】
創作舞踊「水かがみ(みじかがみ)」 志田真木
女踊「綛掛(かしかき)」 具志忍
創作舞踊「磯千鳥(いそちどぅり)」 山川昭子
創作舞踊「古見之浦(くんのーら)」 志田真木、井口三恵子、砂邊美智子
女踊「作田(つぃくてん)」 金城美枝子
女踊「諸屯(しゅどぅん)」 志田房子
歌三線:比嘉康春、新垣俊道、仲村逸夫
箏:名嘉ヨシ子 笛:宮城英夫
胡弓:又吉真也 太鼓:比嘉聰
本公演の模様はさっそく新聞やテレビ・ニュース(NHK)でも取り上げられました。
琉球芸能の技と心披露 復帰40年記念横浜公演(琉球新報 2012年5月1日)
横浜で琉球舞踊公演 復帰40周年を記念(沖縄タイムス 2012年4月30日)
日本復帰40年へ 琉球芸能公演(NHK 動画ニュース 2012年4月30日)
沖縄地方の唄や芸能といえば島唄や民謡・ポップスなどは比較的CDも容易に入手可能で、愛好家も相当数いらっしゃると思いますが、伝統的様式の舞踊となると、それほどは知られていない、まさに「雅び」と「粋」の極みと言える世界。組踊立方と琉球舞踊の人間国宝である宮城能鳳(みやぎ のうほう)さん、そして琉球舞踊の人間国宝の金城美枝子(きんじょう みえこ)さん、志田房子(しだ ふさこ)さんの踊りから伝わる波動は、時間を超越した感動を呼び覚ますものでした。その舞の動きの遅さは能に匹敵し、いや、もしかすると動きの抑制に費やす力の度合いは能以上かもしれません。今回、琉球古典舞踊の女踊の最高傑作とされる「諸屯(しゅどぅん)」を踊った志田房子さんは、毎日新聞の取材(◆)で次のように語っています。
『諸屯節』の『三角目付(さんかくみぢち)』では、目だけで心情を表します。手踊りでは心を全部指先に託します。そして激しい気持ちは抑えて10分あれば3分を出し、あとの7分はためて表現いたします。
この不動の動、視線と指先だけの舞の中から、どれほどまでに悠遠な世界と感情の深淵を引き出せるか。そこに賭ける琉球舞踊の凄味を前に、息もできないほど魅入られてしまいました。
伴奏の音楽も同じような節がゆったりとした周期で繰り返されていきます。まるで遠浅の渚に、静かに波が打ち寄せるかのように、それは天国的なまでの至福のミニマリズム…。その繰り返しは、微細な揺らぎのなかで深められていく瞬間を味わい確かめるためのもの。ここには、自我の表現など最初から必要とされていないもっと広い解放された世界があることを実感。高橋悠治さんの本『きっかけの音楽』(みすず書房)に出てきた一節が、ふと思い出されました。
耳を悦ばせる音は、くりかえし求められる。
だが、消え去った音は二度ともどらない。
反復は、幻覚にすぎない。
流れる水がおなじ水でなく、別な水でもないように、
まったくおなじものとも言えず、異なるものとも言えない音が
つぎつぎに立ちあがる。
その幻への執着に支えられて、音楽がある。
虚ろなものをとどめようとして、
ひとは音にかたちをあたえる。
そのかたちは仮のものにすぎないが、
それがなければ、仮のもの、虚ろなものとしてであれ、
音について考えることさえできないだろう。
今年は冒頭に記したように、沖縄本土復帰40周年に当る記念の年であることから、国立劇場をはじめとして、さまざまな沖縄・琉球関連の芸能公演が企画されています。国立劇場の「伝統芸能情報館」でも、今月28日まで「琉球王朝の華 組踊と琉球舞踊」の企画展示が開催中です。美しい衣装や珍しい楽器を見ることができ、さらに戦前の舞踊の映像も鑑賞できるとのこと。入場は無料。お薦めです。
当財団から発行している琉球古典音楽のCDをご紹介します。『琉球古典音楽集成/城間徳太郎』(VZCG-8123〜4)。
今なお沖縄県民に広く愛好されている琉球王朝宮廷音楽の世界を、琉球古典曲の代表的演奏家である城間紱太郎(しろま とくたろう)さん(国指定重要無形文化財<総合指定>)の演奏で収録した二枚組。平成13年度 第56回 芸術祭レコード部門優秀賞を受賞した名盤です。日本語・英語の両方の解説も充実した、琉球古典曲の初の集成盤です。監修・解説は琉球音楽の研究では第一人者であるロビン・トンプソン氏が務めています。演奏は、唄・三線:城間徳太郎、糸数善昭、新垣仁輝、金城栄五郎/箏:城間安子の皆さんです(1998年9月1日、2日 沖縄県那覇市での録音)。
註記:城間さんのお名前は、正しくは「徳」の旧字「紱」を使った「城間紱太郎」と表記しますが、当CDジャケット・解説書では新字の「徳太郎」で表示されています。
(堀内)