民族音楽CDシリーズ「JVCワールドサウンズ」の制作が佳境に入っていた90年代、韓国の伝統音楽として最初に取り上げたのが「珍島シッキムクッ」だった。
死者への巫儀〜珍島シッキムクッ ≪JVCワールド・サウンズ≫
名高いシャーマンの金大禮(キム・デレ)、朴乗千(パク・ビョンチョン)お二人と、そのグループによる「洗骨(シッキム)」の儀式をライブ収録したアルバムは、その当時の韓国の新聞に「日本は今度は、韓国の文化まで奪いに来た・・」という論旨で書かれたほど話題になった。
もっともその後、「自分たちで自国の伝統文化を記録しないことを棚に上げて、いうのはおかしい・・」という趣旨のご意見も出たそうで、そのバッシングは沙汰やみになったとも聞いた。
1991年4月に録音したこのアルバムは、ソウル市近郊の小高い山間の社での収録だったが、その年の12月に釜山市で収録したのが、韓国の巫堂(ムーダン)と言えば胡笛(ホジョク)の名手、故金石出(キムソクチュル)さんとの初めての出会いとなった。
この釜山での録音は、本当に忘れられない出来事だった。
銅鑼と杖鼓の乱連打、パ行〜パピプペポ〜の最強音で鳴り渡る胡笛。
脳は次第に沸騰し、隣部屋に設えたモニタールームの全員が、立ち上がって踊り始めていた。
「神と人とを仲介し、意識と霊魂を解き放つシャーマン音楽」。CDアルバムのキャッチコピーにこう記し、続けて「不世出の天才、金石出率いるアンサンブルが繰り広げる、世界に類を見ないポリリズミックな音楽世界の神髄を収録」。
これは全く大袈裟ではない。
ネット上には、「狂乱のパフォーマンスが目に浮かぶ・・」「実に凄まじい熱さ・・」、 「本当に凄まじい演奏で世界屈指のテンション・・」、「身を切り血の出るような生々しいリズム・・」など、この破格のアルバムに寄せられたコメントが見つかる。
豊漁の祭儀〜東海岸別神クッ/金石出と韓国東海岸巫俗
このころ、シャーマン音楽に魅せられて日本から韓国に渡り、また、韓国から招聘したシャーマン音楽家と共演を重ねていた邦楽演奏家のひとりに沢井一恵さんがいて、板橋文夫、斎藤徹各氏等ジャズ畑の方々と、パフォーマンスを重ねていた。
暗い舞台に立つ真っ白な衣装の沢井一恵さんの姿は、仄明るい燭台を手元に捧げながら祭壇に向かう巫堂の姿と何時もどこかで重なっている。
(理事長 藤本)