じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

沢井一恵 箏=KOTO 360°

今週発売された雑誌『G-Modern』vol.29()は「日本の周縁音楽」という特集を組んでいて、琵琶法師・山鹿良之さんに関連する記事も掲載されているほか、「レーベル探訪」というコーナーでは日本伝統文化振興財団が登場しています。また当財団の近作CDの特別レヴューもあり、桃山晴衣『夜叉姫』()、沢井一恵『現代邦楽の世界』()、堅田喜三久『歌舞伎の囃子』()の三枚のアルバムが、精緻な切り口で紹介されています。ぜひご覧ください。



ところで、同雑誌の表3全ページに掲載されているのが今年4月に当財団から3枚の代表作をリマスタリングで復刻した箏奏者・沢井一恵さんのチラシ画像です。雑誌ではモノクロでチラシの表面だけの掲載なので、ここでカラー両面の画像をご紹介いたします。画像をクリックすると拡大表示されます。

『G-Modern』は日本のアンダーグラウンド音楽を専門に取り上げる知る人ぞ知る雑誌ですが、じつは沢井一恵さんは創刊号(1992年)にインタビューで登場しています。この頃の沢井一恵さんの音楽活動は、海外の先鋭的なジャズ・フェスティヴァルに出演したり、即興演奏を試みたりと、まさに縦横無尽。その象徴ともいえるのが1989年と1990年のそれぞれ12月末に池袋・スタジオ200で開催された「沢井一恵ライヴ&トーク KOTO; 360°の眼差し」と題する連続コンサート・シリーズでした。手元にあるStudio200の実績をまとめた書籍『スタジオ200活動誌』(発行:西武百貨店、1991年)を繙くと、253ページに沢井一恵さんがこのイベント当時を振り返って綴った文章が掲載されていましたので、この時代特有の創造的な文化の熱気をお伝えする意味でも、ここにご紹介したいと思います。(画像をクリックすると拡大表示されます)

ジョン・ケージの2台のプリペアド・ピアノのための『3つのダンス』を四面のプリペアド十七絃箏に編曲したヴァージョンが初演されたのは、1989年の「KOTO; 360°の眼差し」でした。以前沢井さんは同作品のCDを自主制作盤として出していましたが、今回の当財団からの復刻では新たにリマスタリングを行ない、より鮮烈なサウンドに生まれ変わっています。ニューヨークのジョン・ケージ・トラストの代表ローラ・クーンさんからも、先だって「なんと美しいのでしょう!」と感激のメッセージが届きました。

また、本CDジョン・ケージ:3つのダンス』には、アルバム『目と目』のイギリスでの録音時に、余った時間で一回だけ演奏したご主人の沢井忠夫さん作曲の名曲『讃歌』の音源が追加収録されています(『目と目』には収録時間の関係で未収録)。沢井一恵さんが沢井忠夫さんの箏のための作品の演奏録音を発売するのはこれが初めてのことです。

今回一緒に復刻した『目と目』に関しても(ピーター・ハミル太田裕美さんがヴォーカルで参加、独特の音楽世界を追求しているAyuoさんのプロデュースによる名盤!)オリジナル・マスターテープからリマスターを行なっていますが、そのときにこの『讃歌』の未発表音源を偶然発見することになったのです。沢井一恵さんご本人も、録音の後で日本に帰国する飛行機のなかで一回聴いただけで、今までずっと忘れていたそうです。

沢井一恵さんは、その後も箏という楽器を邦楽界の枠に縛られない新しい音楽芸術の地平に解放するためにさまざまな実践を続けています。邦楽界だけでなく他のジャンルの世界中の一流音楽家から高く評価されています。たとえば作曲家ソフィア・グバイドゥーリナもその一人で、この世界的作曲家はNHK交響楽団からオーケストラ作品を委嘱されたとき、真っ先に「サワイを独奏者にしたコンチェルトなら書く」と言って、実際に完成した作品『樹影にて』はグバイドゥーリナの代表作といってもよい名曲だと思います。先鋭的なジャズ評論を展開する横井一江さんも雑誌『Improvised Music from Japan 2004』()で、「無限の可能性を求めて〜沢井一恵と箏」という文章を発表されています。ちなみにクリエイティヴ・ミュージック・シーンで大活躍中の箏奏者、八木美知依さん()の師匠は、沢井忠夫さんと沢井一恵さんです。

 

沢井一恵さんの最近の活動では、今年(2010年)の4月、坂本龍一さん作曲の箏協奏曲を、佐渡裕さん指揮の兵庫芸術文化センター管弦楽団とともに兵庫と東京で世界初演して、5月にはテレビ番組「題名のない音楽会」に佐渡裕さん、坂本龍一さんと一緒に出演されたことも記憶に新しいところです。さらには、国立劇場の近く、平河町にあるお洒落な北欧高級家具ショップを舞台に新しく始まったコンサート「平河町ミュージックス」()の第1回「沢井一恵 アジアの絃〜5つの類」()での演奏も、じつに素晴らしいものでした。音楽評論家の林田直樹さんのブログでも紹介されています。→

当財団から今年復刻した3枚のCDについては、制作を担当した私が綴ったエッセイが、平井洋さんのサイト「Music Scene」に掲載されていますので、読んでいただけるとうれしいです。

(新しい本やCDが紹介されるたびにどんどん後ろにずれていってしまうので、お手数ですがリンク先のページで過去記事まで遡ってご覧ください)


  

当財団の沢井一恵さんのCD3枚の紹介ページはこちらです。→ 各アルバムのページ内で下にスクロールしていただくと、収録全トラックの聴きどころが各45秒ずつ試聴できます。ぜひお聴きください。箏という楽器のイメージが拡がります。

ザ・フェニックスホールのウェブサイト内の以下の記事もご参照ください。
箏曲家沢井一恵さん インタビュー 時空を超えて探る「伝統」

(堀内)