じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「蘇合香(そこう)」二年がかりで上演


今週2/26(土)の午後2時から、国立劇場大劇場で舞楽「蘇合香(そこう) 一具」が上演されます。ただし、今年は「前半」のみ(序一ノ帖、三ノ帖、四ノ帖、五ノ帖)。「後半」は平成24年2月25日(土)に上演予定です。→
「蘇合香」は元は天竺で生まれ、西域、唐を経て日本に伝承されて千年を迎える作品です。「四箇大曲(しかのたいきょく)」のひとつで、その格調の高さと、全曲を続けて演奏すると2時間以上かかり滅多に聴く機会のないことから、幻の名品として知られています。2007年12月26日に伶楽舎が管弦での全曲一挙上演を行なったことが記憶に新しいところ。(伶楽舎 雅楽コンサートno.18『伶倫楽遊』〜大曲・蘇合香を聴く〜)

そのときのプログラム・ノートで伶楽舎の芝祐靖さんは、蘇合香がインド、西域では薬草として珍重されていたこと、また生薬だけでなく香料としても使われ、唐では、その調合時に傍らで奏でた音楽が「蘇合香」だったと記した資料が残っていることなどを紹介されています。蘇合香は奈良時代から日本でも香道に用いられていたようです。種々の香材を集めてゆっくりと調合するときに、あるいは香合わせの場において、この「蘇合香」の典雅な調べが、日本の宮廷でも奏でられていたのかもしれませんね。

今回の国立劇場公演は、宮内庁式部職楽部が36年前の部分上演以来、久方ぶりとなる待望の取り組みですが、一挙上演ではなく今年と来年の二回に分けてのもの。それだけ準備が大変ということの裏返しなのでしょう。楽譜の解釈に異説が多いこともその理由のひとつ。六人の舞人はこの作品の時だけ用いられる蘇合香の草を象った「菖蒲甲(しょうぶかぶと)」を付けて登場します(チラシ画像を参照)。難しいとされる舞の所作も見どころです。

幸いチケットはまだ残りがある模様。この貴重な機会をぜひお見逃しなく。

ところで、手元にある河鰭實英(かわばた さねひで)・著『舞樂圖説』(昭和32年明治図書出版株式会社刊)を参照したところ、この作品「蘇合香」については、「そこう」ではなく「そごうこう」と読みが付され、以下のような解説が記されていました。

蘇合香(そごうのこう)
<蘇合香>新楽 大曲(たいきょく)
 舞楽六人 襲装束別甲
天竺楽であって、常には蘇合とのみとなえ、香の字は略す。
昔、阿育王(あいくおう)という人が、蘇合香(そごうこう)を服して、病気を治すことができたのにたいそう感じ、これを徳として楽曲を作り、臣であった育偈(いくげ)に命じて舞を作らせた。よってこの舞は蘇合香の草の葉を冠として舞い、その香気が殿中に満ち溢れて邪気を除いたといわれる。
この曲は初め印度より唐に入って教坊の軟舞となっていたのを、桓武天皇延暦年間に遣唐舞生(けんとうぶせい)和邇部(わにべ)の島継(しまつぐ)が、これを本邦に伝えた。現在も、菖蒲甲(しょうぶこう)と称する蘇合香の葉をかたどった甲をつけて舞う。

(堀内)