じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「唯是震一 協奏曲を弾く」

CDアルバム「唯是震一 協奏曲を弾く Shin-ichi Yuize plays his Concertos」が今月発売されました。

じゃぽ音っと作品情報:唯是震一 協奏曲を弾く /  唯是震一
現代邦楽界の第一人者、唯是震一先生は1923(大正12)年生まれ、本日10月30日に満88歳のお誕生日を迎えられました。おめでとうございます! 生まれたのは関東大震災のあった年で、珍しいお名前の文字はそれにちなんだものと伺ったことがあります。
北海道の箏曲一家に生まれて幼い頃から箏に親しみ、中学時代に作曲家・早坂文雄と出会い、やがて東京音楽学校邦楽科、次いで東京芸術大学楽理科に学んで、1953(昭和28)年、東京芸術大学を第一期生として卒業。翌年から米国コロンビア大学に留学し、当時の作曲界を代表するヘンリー・カウエルに師事したという経歴をお持ちです。箏、三弦(三味線)の演奏家および作曲家として長年活躍していらっしゃいます。
このCDは、1986年2月27日、「現代日本音楽の夕べ」シリーズ9「唯是震一個展」と題して東京交響楽団とともに自作を自演したステージをライブ録音したLPの名盤を、復刻したものです。LPに収録されていたのは4曲で、1954年から1977年までに作曲された、いずれも伝統的な音組織による協奏曲が選ばれています。
さらに今回のCD化に際して、1961年に都市センターホールで録音された、やはり自作自演の「箏とオーケストラのための協奏曲風六段」が追加収録されています。作曲の師ヘンリー・カウエルの下での修行時代に、大指揮者ストコフスキーの委嘱で書かれた作品です。
巻頭言「米寿を迎えて」によると、委嘱の折、ストコフスキーがクレーの画を指して、「馬上の人が箏ソロ、灰色の大馬がオーケストラというイメージで書いて欲しい」という希望を提示されたということです。なんともすてきなエピソードです。もっともご本人にとってはたいへんなことで、「恩師カウエル先生の下で、オーケストレーションの技法を習得中の習作の心構えで、一所懸命だった記憶があります。」と記されています。
この「協奏曲風六段」は箏曲「六段」の調べをモチーフに自由自在に展開しています。オーケストラで雅楽の響きをみごとに再現した第3段、原曲のまま早いテンポでカデンツァ風に箏を独奏する第4段など、「六段」をよく知っている人はもちろん、よく知らない人も楽しめる曲だと思います。ぜひ聴いてみていただきたいと思います。
唯是先生は本当に数多くの様々な作品を世に出していますが、お箏を習っている人にもっとも人気があるのは、箏独奏曲「神仙調舞曲」ではないでしょうか?
1982年発売の「現代の箏曲ベスト30」(監修:平野健次/LPレコード5枚組)でも、この曲が採られていました。この盤は現在CD5枚組に復刻されています。「神仙調舞曲」を演奏しているのは沢井忠夫さんです。→じゃぽ音っと作品情報:復刻 現代の箏曲ベスト30(5枚組)
このほかに、作曲者自身の演奏による「神仙調舞曲」のCDもあります。→じゃぽ音っと作品情報:平成五年 正派試験課題曲集 箏・三弦 古典/現代名曲集(四) /  正派邦楽会

どちらも魅力的で、聞き比べてみたくなります。

(Y)