じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

トリフォニーホールの地方都市オケフェス

東京、錦糸町すみだトリフォニーホールで、3月18日から27日まで「第15回 地方都市オーケストラ・フェスティバル」が開かれています。「日本列島各地の風土に醸成されたオーケストラが放つ鮮烈な独自の個性。今、その旋風が吹き込む!」というもの。

大阪交響楽団、群馬交響楽団、セントラル愛知交響楽団、広島交響楽団が参加していますが、3月25日のセントラル愛知交響楽団の公演に行ってきました。

大ホールのロビーには、舟越桂さんのピアニストの彫刻が。
今回のいちばんの目当ては、野村峰山さんの尺八、野村祐子さんの箏で演奏される、名古屋在住の作曲家、水野みか子さんによる「レオダマイア〜尺八、箏と管弦楽のための〜」の管弦楽版初演。
開演30分前からプレトークがあって、指揮の齊藤一郎さんと各曲目のソリストの皆さんが登場しました。
尺八の野村峰山さんによると、音程の違う三種類の尺八を持ち替えての演奏で、四分音(半音の半分の音程)なども出てくるとのこと。お箏の野村祐子さんは、普通の十三弦のお箏では間に合わず二十弦箏を使うことにしたこと、調性がない曲なので調弦にも苦労されたことなどを話されました。演奏についてかなり難しい要求があり、お二人とも苦労されたようです。
いったいどんな難解な曲なのだろうと思いましたが、聴いてみるとそんな印象はなく、オーケストラに尺八や箏が溶け込んで世界を作っているというのでしょうか、自然に聴くことができました。
曲目解説にはつぎのようにあります。

英国19世紀ロマン派の詩人ワーズワースの詩《レオダマイア》に基づく。戦で命を落とした勇者の死を嘆く妻レオダマイアの強い願いに神が応え、3時間だけ冥府から蘇った夫と逢うことが許される。(中略)
曲は、詩から自由に発想された切れ目無く演奏される2章から成る。闘いを回想するたくましい男性(尺八)に控えめな女性(二十絃箏)が寄り添う1章、逆に箏が雄弁に語りはじめる2章では尺八が遠くから見守る。(後略)

ソロのお二人がご夫妻であることも、効果的に働いているように思いました。現代音楽の手法を使いながら、ドラマを感じさせる作品でした。
野村峰山さん、野村祐子さんには、それぞれ学校の邦楽教育支援でもお世話になっております(→熊本で箏ワークショップ - じゃぽブログ)。今日はまた別の一面を拝見することができました。
このほか、木下正道さん作曲のリコーダーとチェロとオーケストラのための「問いと炎II」の初演、ピアニストとしても活躍する野平一郎さんが管弦楽のために編曲した斬新なバッハの「ゴルトベルク変奏曲」と、現代に生まれた3つの作品に触れることができました。
セントラル愛知交響楽団 は1983年にナゴヤシティ管弦楽団として発足し、1997年岩倉市の補助を機にセントラル愛知交響楽団と改称。能演出による歌劇「ドン・ジョバンニ」や文楽様式による歌劇「カルメン」、声明を取り入れた委嘱作品など、意欲的な演奏活動をしています。今後どんな作品を生み出すのか、注目です。
この日のプログラムは次のとおり。

地方都市オーケストラ・フェスティバル2012 セントラル愛知交響楽団
2012年3月25日(日)15:00開演  すみだトリフォニーホール(東京)
齊藤一郎(常任指揮者)[指揮]  セントラル愛知交響楽団[管弦楽]
木下正道/「問いと炎II」リコーダー・チェロとオーケストラの為の世界初演) 鈴木俊哉[リコーダー] 多井智紀[チェロ]
水野みか子/レオダマイア〜尺八、箏と管弦楽のための〜管弦楽世界初演) 野村祐子[箏] 野村峰山[尺八]
J.S.バッハ(野平一郎編曲)/ゴルトベルク変奏曲BWV988(2010年11月19日初演)

じつはこのプログラムは、昨年の3月に予定されていたものだそうです。東日本大震災の影響で公演が延期となり、1年ぶりに実現しました。
振り返れば、昨年の今ごろは演奏会が軒並み中止になり、4月の終わりまでほとんど開催されませんでした。日々演奏会が開かれ、聴きに出かけられることがどんなに幸せであるか、思い知らされたものでした。そのことを忘れずにいたいと思います。

(Y)