滋賀県米原(まいばら)市。琵琶湖東岸の北(湖北)に位置し、人口およそ4万人。近隣の長浜市や彦根市を含めても20数万人という小規模な地方都市ながら、中山道から北陸に向かう街道の分岐点にあり、かつては琵琶湖水運に接続する交通の要衝として栄え、薬草の宝庫とされる名峰伊吹山を背後に清流姉川が琵琶湖に注ぐ自然の豊かな土地です。ちなみに長谷川伸原作『瞼の母』の主人公で大衆芸能の世界に欠かせないキャラクター「番場の忠太郎」は中山道番場宿、すなわち現在の米原の生まれ。
この地に今年開館35周年を迎えたイベントホール・小劇場・オフィスの複合施設「滋賀県立文化産業交流会館」があります。先頃同会館でこの8月に開催される〈芝居小屋「長栄座」夏のフェスティバル2023〉の制作発表会見が行われ、オンラインで参加する機会を得ました。
「長栄座」とは明治時代に長浜市に実在した芝居小屋で、同会館内に2011年に期間限定で再現され、これまで邦楽・邦舞の創作作品から本格的な古典作品が数多く上演されてきています。同フェスティバルはこの長栄座を会場に8月5日から12日まで以下のプログラムで開催されます。
5日(土)・6日(日)
〈長栄座伝承会むすひ〜東西を結び、刻(とき)を結び、乾坤(あめつち)を結ぶ〜〉
〈近江のあたらしい伝統産業展〉
11日(金・祝)
〈片山九郎右衛門 親子で楽しむ日本の伝統芸能〜能「大会(だいえ)〉
12日(土)
〈びわ湖ホール声楽アンサンブル「美しい日本の歌」米原公演Vol.3〉
会見では、竹村憲男館長、構成・演出の中村豊氏、出演者の尺八演奏家(人間国宝)野村峰山師、箏演奏家萩岡松韻師、児童合唱指揮者鳥塚貴絵氏のほか演目のテーマとなっている琵琶湖に浮かぶ竹生島の宝厳寺管主峰覚雄師らが出席し、それぞれの抱負を語りました。また、途中野村峰山師のデモ演奏も披露されました。
注目は二日間にわたって3部構成で行われる〈長栄座伝承会むすひ〉。3年計画で同会館が自主制作しているもので、今回が完結編。日本の歴史と人々の信仰、そしてこの地米原が持つ地理的結節点としての特徴を複合的にストーリー化し、弁天様のふるさとインドの音楽(初年度)までをも演目に取り込む幅広い視野で伝統音楽・芸能を捉え、それらを結び合わせる壮大なプロジェクト。また、同館では〈古典芸能キッズワークショップ〉として小学生向けに箏と日本舞踊を教えるなど伝統の次世代への継承にも取り組んでいる。
今回の会見を通じて滋賀の魅力の発信にとどまらない同館の創造的かつ文化的でスケールの大きな活動を知ることができ、貴重な学びの機会となりました。
この夏はぜひ伝統が息づく緑豊かな湖北のまち、米原へ。