じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

「ドレミを選んだ日本人」と「春の海」

先日「ドレミを選んだ日本人」(千葉優子著 発行・音楽之友社を読みました。近所の図書館にある音楽書の棚をなにげなく眺めていたところ、背表紙のタイトルに惹かれて偶然手にとり、読み始めると自分にとって興味深い本になりました。
自分が公立学校の小中学生だったとき、音楽の授業といえばピアノやオルガン伴奏での合唱や器楽の合奏、クラシック音楽の鑑賞が主でした。ピアノといえば先生の前で「ドレミファソラシド」が上手に弾けるかというテストを受けた際、家にピアノがなく学校のピアノも自由に弾けなかったため、鍵盤に触れるのにドキドキした思い出が。児童や生徒が各自で使う楽器はリコーダー、ピアニカのほか、クラシックギター2〜30本ほどがひとクラスで使うため中学校の音楽室に置かれていましたっけ。
授業での邦楽の記憶といえば、教科書に八橋検校と箏の話、宮城道雄「春の海」についての解説やレコード鑑賞、虚無僧が尺八を吹いている姿を収めたモノクロの写真を珍しげに眺めていたといった風でした。音楽室の壁にバッハやベートーヴェンほか大作曲家の肖像画がずらりと並ぶなか、日本人作曲家・山田耕筰肖像画を見つけてそこにちょっと親しみを感じてはいたものの……ともかく30年ほど前の自分の体験によれば、義務教育での音楽の授業で邦楽が紹介される割合は微々たるものだったと思います。ただし学校で触れる機会がなくとも、自分の同世代あるいは前後の世代でも日常的に邦楽に触れる機会があったという方もなかにはいらっしゃいますし、今となってはうらやましい限り。
以前、ブログ記事「教材づくり研究中」にあった話題ですが、「わが国の音楽文化の指導を重視する」という考えが最近の新学習指導要領で示されたそうですね。自分の世代の多くはあまり体験したことがない、授業で和楽器に触れることが組み込まれるようになったのもここ10数年ほどのこと。今後日本音楽の魅力を子供たちがもっと体感し、自国の音楽文化・伝統芸能への認識が新しく広まると素晴らしいなと思います。この本「ドレミを選んだ日本人」は、かつての自分にはすっぽりと抜け落ち、知る機会があまりなかった明治〜太平洋戦争終結までの日本音楽、伝統芸能の近代史を勉強するのに恰好のテキストのひとつ。借りて読むだけでは飽き足らず、購入して手元に置いておきたいと思います。このじゃぽ音っとをご覧いただいている方ですでにお読みになった方はさぞ多いかと思うのですが、ご興味のある未読の方は年末年始の読書にいかがでしょうか? 年始のBGMにおなじみの「春の海」がもしかしたら、いつもとは少し違って聴こえてくるかもしれません。そもそもこの曲が発表された昭和初期、西洋音楽の影響を受けた新しい音楽として当時聴く人の耳を捉えていたそうですから。
最後にじゃぽ音っと内作品検索ページでの人名「山田耕筰」の検索結果曲名「春の海」の検索結果、「春の海」をご紹介したブログ記事「お正月は「春の海」で」もよろしかったらご覧ください。

(じゃぽ音っと編集部T)