じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

都家歌六師匠と岡田則夫さん


都家歌六師匠といえば、「のこぎり音楽(ミュージカルソウ)」の演奏者として、またSPレコード収集家として広く知られていますが、昭和26年に桂 三木助師匠に弟子入りして以来、芸歴60年を越える大長老の落語家です。昨年7月に発売したCDは、現在では誰も演り手がいなくなった幻の落語「壁金」を、どうしても後世に残したいという歌六師匠の熱い思いから作成されました。どうせCDをつくるのならば、と、これまでご自分の演じた落語を前座(桂三多吉)、二ツ目(桂木多蔵)、真打(都家歌六)のそれぞれの時代ごとに、ご自自身で記録し保存してきた落語で構成して、噺家生活60年をまとめた記念盤にしようということになり、このCDはまさに貴重な音源の“オン・パレード”となりました。

さて、これは、一体なんだと思いますか?見るからにレコード盤のようで・・・。SP盤?それにしては、なんだか皺があるように見えます。よく見ると「28.12.21」というスタンプがあります。「声の郵便」「錦(金)明竹」という文字も読めますね。
これは昭和28年12月21日に、都家歌六師匠が自らの落語を記録するために録音した、いわゆる「ボール紙のレコード」です。ボール紙を芯に、表面を樹脂加工したもので、レコードの直径は15.5センチくらい。昭和27年にはじまった郵便局の「声の郵便」を利用して、歌六師匠は自分の記録をこんなふうにして残したわけです。家庭用の録音機の普及は昭和30年以降ですし、当時記録の方法はレコード会社に頼んでSP盤にするしかないという時代でした。記録に対する師匠の執念のようなものが感じられます。この音源は、もちろんこのCDの中にちゃんと収録されています。
今回のCDでは、音源だけではなく、解説書も実に充実しています。演目の解説、「壁金」の速記録、歌六師匠の年譜や噺家生活60年の聞き書き、ボール紙のレコードの解説にいたるまで、実に興味深い解説が満載です。何しろ、執筆はSPレコード収集家としても巷間芸能の研究家としても著名な岡田則夫さんですから・・・。
(→じゃぽ音っと作品情報:幻の落語・壁金/八代目 都家歌六 /  八代目 都家歌六
ところで、歌六師匠と岡田則夫さんの出会いは、岡田さんがまだ大学生だった頃だそうで、共にSP盤収集の先輩後輩という間柄、かれこれ45年に及ぶおつきあいなのだそうです。「師匠からは収集の作法やレコードの整理の仕方から磨き方に至るまで、SPレコード収集のイロハから手ほどきしていただいた」と岡田さんは語っています。なぜ、そんなに詳しいかですって?!
これは、2012年12月21日に発売された岡田則夫さんの著書「SPレコード蒐集奇談」の発売記念パーティーで伺ったお話の受け売りです。
レコード・コレクターズに連載されていた楽しいお話は、多くの方々のご記憶に残っていると思いますが、長年に亘る御苦労の末、やっと本になったそうです。編集者の談に、「蒐集奇談」連載中に小沢昭一さんから「この連載は本になる予定がありますか。もしないのであれば、私が出したいと思うのですが・・・」というお問い合わせがあったのだそうです。本にする予定があると答えると、楽しみにしているということでその時は終わったのだそうですが、もう少し発売が早かったら、小沢さんに見ていただけたのに、残念でした・・・、というパーティでのコメントが、心に残りました。
さて、この本がどんなに愉快で楽しくて、そして「ためになる」かは、とてもちょっとやそっとではお伝えできません。どうぞ、ご自身の目でご覧になって下さい。

(やちゃ坊)