じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

瞽女の催し、門前仲町と上越高田

三味線と唄を奏でる盲目の女性の旅芸人、瞽女(ごぜ)。山梨大学のジェラルド・グローマー教授の大著『瞽女瞽女唄の研究』(名古屋大学出版局、2008年 )は、第19回「小泉文夫音楽賞」と第25回「田辺尚雄賞」を受賞していますが、これを読むと、近世には瞽女が日本各地にいた記録が残っていて、「瞽女イコール越後」というわけではないことが分かります。しかし、明治、大正となるにつれて越後(新潟県)以外の瞽女は数が少なくなり、昭和に入って最後に残っていた高田瞽女の三人と長岡瞽女がいなくなって、日本から瞽女の姿は完全に消えました。

かつて、自由に各地を行き来することができずに山間部の農村に暮らした人々にとって、年に一度必ず訪ねてきてくれる瞽女さんは、外部の情報を伝えてくれる大切な存在であり、またその唄を聴き、話に耳を傾けることが貴重な娯楽でもありました。つまり、瞽女とは、それを受け容れる人々や社会があって始めて成立するものであって、戦後の農地改革で大地主が消えて瞽女宿が無くなったことや、ラジオなどの情報通信と交通網の整備もあり、やがて社会の側が瞽女を必要としなくなったときに、もはや、瞽女だけの対応や工夫で別のかたちで生き残ることは不可能でした。言い換えれば、それは共生の芸能だったのです。

皮肉なことに瞽女がまさに消えようとした1970年代半ば以降、当時日本に大きな瞽女ブームが巻き起こり、瞽女を描いた画家・斎藤真一さんの絵や書籍が多くの人に注目されました。その斎藤さんが何度も新潟県高田市(1971年以降上越市)に通って取材したのが、もう旅に出ることをやめた最後の高田瞽女、杉本キクイ(キクエ)さんたち三人の瞽女さんでした。高田瞽女の唄は、ソニーコロムビア、テイチク、クラウン、キングからLPが発売されましたが(キング盤のみごく一部をCD化・現在廃盤)、しかしそれはあくまで「唄」だけを切り取ったものであって、ある意味では瞽女と人々との関わり合いという本来の瞽女文化の記録とは言い難い面もあります。

じつは、そんな高田瞽女の生活風景や人々との交流の場面を撮影した、2008年に完成した貴重なドキュメンタリー映画があります。『瞽女さんの唄が聞こえる』と題されたこの映画は、1971年に撮影された後、長い間編集されずにいた「幻の映像記録」でしたが、昨年末にはDVDにもなってアマゾンでも購入可能となりました(監督:伊藤喜雄/監修:市川信夫)。この映画を毎回上映して、瞽女と関連した分野のゲストを招いて座談会を行なうイベント「もんてん瞽女プロジェクト」が今年の4月から東京・門仲天井ホールで約2カ月毎に行なわれています。

その第4回目が今週10月10日(日)に開催されます。今回の座談会のゲストは日本大学文理学部准教授で社会福祉がご専門の上之園佳子(あげのその よしこ)さんです。毎回、トークや質疑応答が白熱して時間が足りないと思わせるこのイベント、ぜひご覧いただければと思います。高田の「瞽女もなか」や関連書籍の販売も行なわれます。

そして、上越高田でも今月上旬は瞽女関連の催し物が目白押しです。高田では数年前から瞽女を自分たちの町の大切な文化として見直そうとする動きが起こり、「高田瞽女の文化を保存・発信する会」が中心となって各種イベントが企画されています。今年の春には瞽女ゆかりの地を回るバスツアーがありましたし、瞽女唄を継承して演じる歌い手の方を招いた演奏会など、どれも魅力的な催しです。また同会が作成した「瞽女マップ」は本当に素晴らしいつくりです。

「2010この秋、「瞽女」の風が吹く」と題した今回の一連のイベントは、斎藤真一さんの絵画展や公民館「高田小町」での高田瞽女パネル展などのほか、9日(土)には「瞽女唄街道in雁木」と称して、高田瞽女唄継承者の月岡祐紀子さんがこの界隈を門付け唄を演奏して巡ります。同時にミニライブも予定されているようですので、詳しくは「高田瞽女の文化を保存・発信する会」のウェブサイトをご覧ください。

(堀内)