じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

橋をわたって/マクイーン時田 深山


1月28日(金)午後7時開演 東京オペラシティ リサイタルホールにて、「マクイーン時田 深山 箏リサイタル −橋をわたって−」が開催されます()。マクイーン時田 深山(Miyama McQueen-Tokita/マクイーン ときた みやま)さんはオーストラリア、メルボルン生まれで、7歳から箏を学び、メルボルンシドニーで小田村さつき、東京で沢井一恵に師事。これまでに沢井箏曲院講師試験優秀賞、第15回賢順記念箏曲コンクール奨励賞を受賞し、現在は東京藝術大学音楽学部楽理科にて研修中。これが日本でのデビュー・リサイタルとなります。しかし、驚くべきはその選曲・・・。

沢井忠夫 作曲「五つの甦る歌」
高橋悠治 作曲「橋をわたって」
肥後一郎 作曲「筦絃秘抄」
中能島欣一 作曲「三つの断章」
沢井比河流 作曲「真美夜」

いずれも難曲ばかり! 油断してかかると作品の上っ面を撫ぜるだけで終わるか、さもなくば作品の手前で立ち往生。ともかく、並のセンスと実力では組めない意欲的なプログラムであることは確かです。

高橋悠治さんの「橋をわたって」は、昨年当財団から復刻した、マクイーン時田 深山さんの師匠でもある沢井一恵さんの名盤『目と目』)にも収録されている十七絃箏の独奏曲で、1984年に「沢井一恵リサイタル」のために作曲されました。爪を使わず、指ではじかれて演奏されます。以下は作曲者によるノートからの引用。

ベトナム民謡による序奏と即興曲で、インド古典音楽の方法によって、民謡の旋律からとりだした音構造や音形をゆっくり展開する序につづいて、原旋律を提示し、変奏しながら、だんだん速度を上げて楽器のさまざまな技巧を見せる主部からなる。

もとになった民謡の歌詞はつぎのとおり:

橋をわたって
あのひとに上着をあげた
家に帰って父母に
橋をわたるとき風にとられた、と嘘ついた
あのひとに指輪をあげた
家に帰って父母に
橋をわたるとき落とした、と嘘ついた
あのひとに菅笠をあげた
家に帰って父母に
橋をわたるとき風にとられた、と嘘ついた

二つの土地を分かつ川にかかる橋。それをわたることを何になぞらえるか、何と結びつけるか、どんなふうにしてわたるのか、等々。それはいずれも、演奏者と聴き手が、そのときその場所で、音を通じて自由に描き出す世界。マクイーン時田 深山さんが、日本での初リサイタルでどのような橋をわたる響きを聴かせてくれるのか、楽しみです。

マクイーン時田 深山 official website


そして、彼女の師匠沢井一恵さんが NHK FM『邦楽百番』に登場します。放送日は、2011年1月29日(土)午前11:00〜午前11:50(50分)「−現代邦楽・沢井一恵−」。再放送は、翌30日(日)午前5:00〜午前5:50(50分)です。演奏音源は、今月12日(水)にNHKのスタジオでこの放送のために収録されたものです。プログラムは以下となっていますが、こちらもまた物凄い曲ばかりが並んでいます・・・。折口信夫の『死者の書』を彷彿させる「畝傍山」は、音楽の向こう側にまで連れて行かれます。

「情景三章」 沢井忠夫・作曲 (13分42秒)
  (箏)沢井一恵
「畝火山」 高橋悠治・作曲 (9分12秒)
  (五絃琴)沢井一恵
「神絃曲」 三宅榛名・作曲 (9分57秒)
  (七絃琴)沢井一恵
「華になる」 沢井忠夫・作曲 (8分14秒)
  (十七絃箏)沢井一恵

(堀内)