じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

能「井筒」〜銕仙会 煌ノ会〜 

もう12月に入ってしまいました。早いですね。少し雨が降り、寒い一日となりました。今日は、観世流シテ方能楽師 銕仙会(てっせんかい)所属の谷本健吾さんにご案内いただきまして、「煌ノ会」(こうのかい)を拝見しました。

谷本さんは、観世流シテ方・故谷本正鉦のお孫さんで、故・八世観世銕之亟、九世観世銕之丞師に内弟子入門され、その後2004年独立。鉦交会を主宰されています。2008年より自身の研鑽の場として「煌ノ会」(こうのかい)を立ち上げられました。装束のお着替えなどでお忙しく、ご本人の撮影が叶いませんでしたので、HPをご紹介します(◆)。
会場は、青山にある銕仙会能楽研修所です。この間寄り道(◆)をした表参道駅から、すぐのところにあります。

表参道交差点から、素敵なお洋服のショーウインドウを眺めながら少し歩くと、銕仙会能楽研修所入口があります。


ご許可をいただき舞台の様子を撮らせていただきました。

長年の憧れであったという『井筒』が演目に取り上げられていました。作者の世阿弥が「上花也」と自賛する傑作とのことです。前シテ里女(化身)、後シテ紀有常ノ娘(霊)を谷本健吾氏が、ワキ旅僧を宝生欣哉氏、アイ里人を山本則重氏、そして地謡には、山本順之氏他の皆様がご出演されていました。
会の演目は、能だけでなく山本則俊氏による狂言『鎌腹』も上演されました。働かない亭主が鎌を持った女房(アド 山本則秀氏)に追い回され、それならばいっそと亭主の太郎(シテ 山本則俊氏)はあの手この手で鎌を使用し死のうとするのですが実行出来ないという、何故か笑ってしまうお話しでした。そして、観世銕之丞師による秋の名曲『砧』、銕之丞師御子息の淳夫氏による『鵺』と続きました。
【筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに】
この歌で有名な伊勢物語の「筒井筒」を元に構成されているという『井筒』ですが…、動きは決して激しくないのですが、内に秘めている思いに迫力があるという感じでした。舞台の上の井筒(井戸の周りの枠)に近づいたのも、長い時間の中で一瞬だったのですが、それが余計印象的と言いますか…すごかったです。
大和初瀬の在原寺で、業平の墓前に現れた里女は、業平と紀有常(きの ありつね)の娘との恋物語を旅僧に語って聞かせ、消えます。僧が仮寝していると、夢の中に有常の娘の霊が、愛する業平の形見の衣装を身にまとい現れ、舞を舞います。薄(すすき)をかき分けて、思い出の古井戸をのぞき見ると、水鏡に映る自分の姿が業平の姿と重なり合います。そこで地謡が紀有常の娘の心のうちを謡います。
【我ながら懐かしや。亡婦魄霊(ばうふはくれい)の姿は凋(しぼ)める花の、色なうて匂ひ、残りて在原の寺乃鐘もほのぼのと。明くれば古寺の松風や芭蕉葉の夢も、破れて覚めにけり、夢は破れ明けにけり。】
『井筒』の中での歌の内容は「過ぎにけらしな」が「生(お)ひにけらしな」と謡われているそうで、「背が伸びる」の意味の「生ひ」と「老いる」という意味が掛詞になっているのだそうです。
まだまだいろいろな演目がありますので、見てみたいですね。
銕仙会公演情報(◆)は、こちらです。


弊財団からリリースされているCD、DVDをご紹介します。
「砧」「羽衣」 観世寿夫 至花の二曲(2枚組)(◆)
山本東次郎家の狂言 (10枚組)(◆)

(制作担当:うなぎ)