じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

『箏曲要集』

早くも5日となりました。
今日の東京はこれほどと思うくらい寒い日で、財団のすぐ近くに昼ごはんに出ただけで手がかじかんで来ました。

本日は昨日に続き、昨年刊行された邦楽関係書籍の中から、平成24年4月20日発行の『箏曲要集 地歌箏曲研究』(勉誠出版刊)をご紹介したいと思います。


山田流箏曲家・作曲家として大きな足跡を残された初代山川園松(やまかわ えんしょう)先生(1909‐1984)が、最晩年となる5年以上の歳月をかけて執筆された本書は、上巻<【1】古典編>と、下巻<【2】初代山川園松作品編、【3】実技、学理、教育編、【4】八橋検校と山田流筝曲の諸家>の2分冊から成っています。

本書の序文の冒頭に、著者は次のように記しています。

「古典の尊さ」
わたくし自身、作曲を試みるごとに感ずることは、現存している古典がどんなに尊い存在であるかということである。
古往今来、多くの先人によって作られた楽曲はその数をはかり知ることができない。しかし、そのうちの何百分の一あるいはさらにわずかが今日残っているのであって、大部分は人々の忘却のうちに埋もれてしまったのである。それゆえにこれらの残されたものの存在はじつに貴重である。
わたくしが幼少の頃から修得してきた古典の数々は、わたくしの創作の規範となり、柱石となっているもので、わたくしはこれらの古典に対し深い敬意をはらうものである。」


この観点から、筆者は演奏家・作曲家としての実体験に基づく著作物の範疇をはるかに超えたて執筆に取り組まれ、また同時に、演奏家・作曲家ならでは視点を加味して古典曲のまさに本質に迫る解説を著しています。

上巻<【1】古典編>では、山田流のみならず地歌箏曲、尺八まで広範に約120曲の古典曲が取り上げられている本書の解説は、「楽曲の解題」、「歌詞」、詳細な註を配した「句釈」と歌詞の「通訳」から成り、箏曲地歌に接する機会の少ない読者にも大変分りやすい内容となっています。

また下巻<【2】初代山川園松作品編>には山川先生の代表作品が紹介され、<【3】実技、学理、教育編>では箏曲を学ぶ基本となる知識や教育法の紹介、さらに<【4】八橋検校と山田流筝曲の諸家>では近世箏曲の始祖とされる八橋検校と山田流流祖の山田検校について、また、近代の山田流名家の紹介がされています。

本書の編者である山川直治先生(初代園松先生のご子息)の「あとがき」を拝読し、本書は約5年間をかけて初代園松先生が執筆され、お亡くなりになる少し前の昭和59年秋に脱稿され、さらに、5分冊に製本された部厚い校正刷りのみが残されて出版されなかった本書を、直治先生が整理・補筆されて刊行に至ったものと知りました。

箏曲地歌に興味を持つ多くの皆様に、本書を是非お勧めしたいと思います。

さて、箏と尺八の二重奏曲として作曲された「即興幻想曲」は、昭和25年の邦楽コンクール(東京新聞社主催)で作曲部門第一位となった、山川先生の代表作のひとつと目される作品です。

昭和55年、まだ改装前でホールのように大きかったビクター第一スタジオで、ヴァイオリンの和波孝禧さんを共演者に迎え、山川先生のお箏との二重奏で録音させて頂いたことを昨日のことのように思い出します。

また昭和59年12月27日、キリスト教の牧師を父上とする山川先生の告別式が行われた田園調布教会までの駅からの道のり、見上げた教会のステンドグラスも忘れられません。

終わりに、本日はもう一冊ご紹介する予定でおりましたが、次回に譲らせて頂きたいと思います。

(理事長 藤本)