じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

春風がそよそよと (中井猛先生を偲んで)

先日届いた箏曲生田流宮城会の関東支部便りの中に、「中井猛先生を偲んで」という特集記事がありました。
中井先生と言えば、「検校」というあだ名を持つ地歌箏曲・胡弓・笙の演奏家であり、研究家でありました。また演奏や豊富な知識はもちろんのこと、そのお人柄において多くの人に慕われ愛されている方でした。
その中に、生前に中井先生と大変親交の深かった箏曲家の藤田節子先生が、こんな思い出を綴っておられました。

♪春風がそよそよと 福は内とこの宿へ
 鬼は外へと梅が香そゆる 雨か雪かままよままよと
 今夜もあしたの晩も居続けに 茶碗酒

中井さんは、お酒が入ると主人の唄うこの端唄が大のお気に入りでした。電話がかかってくると、「雨か」(今夜は行ってもエエですか)と中井さん。「雪か」(どうぞ)と私。これで交渉成立、三十分もすると「コンバンワ」と現れるのが常でした。

ああ、とてもお二人らしい掛け合いだなと思いました。
この曲を聴いていると、下駄をカラコロ鳴らして藤田先生のお家に駆けていく先生のお姿が目に浮かびます。

この曲はこちらのCDで聴く事が出来ます。 

「春風がそよそよと/市丸」

今から10年ほど前に少しの間、藤田先生のお宅で、中井先生と一緒にお嬢様に日舞をお習いしていた事があります。40近く年が離れているというのに、私より軽やかに、何より楽しそうに舞っていらした先生のお姿が印象的でした。

もうすぐ先生が大好きな端唄の季節を迎えます。今頃はどなたと酌み交わしていらっしゃるんでしょう。日々研究を重ねていたあの検校とでしょうかね。

(まりちょ)