じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

落語の世界は深い!part9

最近のブログで、保育園・幼稚園の発表会に相応しいおススメのCD紹介を書いたのですが、特にこの時期、クリスマス発表会へ向けた、舞台の最後の仕上げに取り掛かっている先生方も多いと思います。合わせて、子どもたちの衣装作りを手伝っているお母さん、おばあちゃん、中にはお父さんもきっといることでしょうね。とにかく親は子どもが一番かわいいもの。子どもだって親が好き。このような感情は時代がどう変わろうとも変わるものではありません。そんな幸せな家族の風景も落語ではよく描かれています。しかし、落語に登場してくる子どもは、何故か「小生意気」。時に親を騙したり、やり込めたりする。さらには親から銭をかすめとろうと知恵を巡らせる、いわゆる「悪がき」もいるから、始末に悪い! でもこれが落語では逆におもしろい噺となっていることが多いわけで。というわけで、本日のブログは、「親と子」に関する落語について。
まずは、大人をやり込める子どもの代表の噺といっても良い「真田小僧」。
◆ ビクター落語 三代目 三遊亭金馬(4) 真田小僧/防空演習/七の字/スポーツ漫談
父親にあの手この手で小遣いをせびるが、なかなか折れてくれない。そこで、「よそのオジサンが訪ねて来た話を言いつけるぞ! っておっかさんに話をすれば、小銭を貰えるからいいや」と謎の言葉をつぶやく子ども。親父は気になり、話を聞き出そうとする。ついには子どもの言いなりになり、この先を聞くなら五銭おくれと、とうとう小遣いをせしめた。
とにかく、この噺に出てくる子どもはこまっしゃくれていて、親はたじたじです。金馬師匠が演じると、子どもらしさを保ちながらも、利口な子どもになってしまいます。しかし、いくら大人をやり込めるといっても、目的は焼き芋が食べたいだけで、可愛くもあるわけですね。
金馬師匠の芸を一言で表現すれば、面白くて分かりやすい。しかしこれは、簡単なようで難しい。分かりやすいだけならアナウンサーのような口調で落語をやれば良いが、それだけでは面白くない。面白さばかりを追求していると、かなりの通にならないと分からない芸になる。金馬のように両立させるのは大変なことだ、と言われています。
次に紹介する噺は、「子ほめ」。ここでは、三代目桂春團治師匠の落語から。
◆ビクター落語 上方篇 三代目 桂春團治(4) 代書屋/高尾/子ほめ
知り合いの家に「タダの酒」があると聞いてやってきた男。ところがこれが大きな間違い。兵庫の「灘」から樽が届いただけ。「なだ」を「タダ」と聞き間違えた。そんなことは日常茶飯事。次から次へとおかしなことをしでかしてしまう。長屋の一家に子どもが生まれ、その子どもを褒めに行くこの噺は、寄席ではおなじみの落語です。
教えてもらったことを、その通りにできず、失敗してしまうという落語がいくつかあります。春團治の持ちネタにはこの種のものが多い。「祝いのし」「野崎詣り」「月並丁稚」などとともにこの「子ほめ」もよく知られたネタのひとつです。いわゆる前座噺を大御所で聞いてみるのも楽しいものです。
ところで、高座に上がり、最初に発する言葉がたいていの場合同じ文句で決まっているという落語家さんが何人かいます。春團治の場合もこの例に当てはまるそうです。
「え〜、ようこそのお運びでございまして厚く御礼を申し上げます。相も変わりません馬鹿馬鹿しいところを一席申し上げ・・・」。ほとんどの場合、こう始まります。熱烈な春團治ファンの中には、最初の「え〜」を聞いただけで、何歳ぐらいの時の高座かが「鑑定」できるというスゴイ方もいらっしゃる、とのこと。究めている方はちがいますね!
関係ありませんが、そういえば私が学生時代、田舎の母親に電話口で一言「ん〜」と言っただけで、「お金はないっ!」と言われたことが幾度とありました。さすが母親!? というわけで、今回のブログはここまで。

(よっしゃん)