じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

スモールハウス

みなさまはどんなお家にお住まいでしょうか?都会のマンション?郊外の広い一戸建て?それとも?

今回ご紹介したい本は、「スモールハウス」(平成24年 高村友也著 同文舘出版)です。スモールハウス、とはサブプライムローンの破綻に端を発した経済危機を契機にアメリカで始まった「スモールハウスムーヴメント」の中で、増えてきたわずか3坪ほどの家を指します。ただ、必ず3坪なわけでなく、要は「大きな家は必要ない」「小さくシンプルに暮らそうよ」というのが、広義でのスモールハウスの考え方だそうです。


※ジェイ・シェファーの家。同書より掲載

そんな小さな家、みすぼらしいのでは?小さすぎるよねと思われるかと思います。ところが、実際にスモールハウスでの生活を営んでいる先駆的な人物ジェイ・シェファーの家の写真は驚くほどすてき。当然バジェットハウスも可能ですが、スモールハウスは小さいからこそ、外装や内装に意匠を凝らしたり、建材も良いものをつかったり(予算がなくても、大きな家でなければ高品質な素材を使える)、太陽光で消費電力をまかなえるようにした自給型の家つくりも可能だといいます。


※日本のスモールハウス、ジャパンドームハウス株式会社より

さて、こちらの本は、いわゆる変わった家で暮らす、変わった人たちの本なのか、というと私は違うと思いました。むしろ家という角度から書いた哲学書です。

この国は、生きているだけで最低限しなければならないことが多すぎて、普通に生活していこうとすると(中略)何だかんだと手続きやら、契約やら、お金の計算やら、人付き合いやら、そうこうしているうちに一生が過ぎていきそうな勢いだ。その頂点にあるのが、「家」という存在だと思う。

確かに、家は多くの人にとって人生最大の買い物で、家のために働いている人もいるでしょう。一般的にわたしたちは家をその最もたるものとして、それに連なるさまざまな消費を促されてめまぐるしく働くことを余儀なくされる社会に生きています。

物と情報の流通が、金もうけを目的とする集団に把握されてしまっていて、僕らの生き方ですら操られ、摩り替えられ、それらなしでは満足できないくらいに、つまり、「経済の中での自由」によってしか幸福を得られないように、支配されてしまっている。それどころか、そうした支配に加担しなければ、給料すらまともにもらえないことになっている。これこそが、「空回り経済」の姿だ。

この本で作者が伝えたかったであろうことは、「あなたが人生で一番大切なものは何ですか?」というシンプルな問い。こうしないと生きていけないという刷り込まれた経済システムから解き放たれて、そこで真に欲する大切なものを中心に生きていきませんか?という提案が、本の趣旨だと思います。ちなみに、同書には昨今の音楽に対する揶揄もされていて、はっとする指摘がありました。

「音楽」は、本来、人間の創造性を喚起し、精神性を豊かにする、僕らが誇るべき文化だ。ところが、今、巷に溢れているやかましい音楽は、CMや店頭で垂れ流されていたり、明日の労働と競争へと注ぎ込むための「不自然な元気」を与えるものばかりだ。宣伝や広告で飾り立てることによって消費者の需要自体が捏造され、人々が要りもしないようなものを買い漁り、不必要な生活水準を喜び、それらを手に入れるための過酷な労働の癒しとして、さらに刺激的な娯楽やサービスが生まれる。

著者の高村さんは東京大学哲学科卒業、慶應義塾大学大学院哲学科博士課程で勉強された哲学の道をこられた方。一見、人目を引く奇妙な家の本かと見えて、生きることの真を問う内容でした。皆様はどう思われますでしょうか。

(弘)