じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

渡辺眸 やさしいかくめい


土取利行さんのCD『縄文鼓――大地の響震』を当財団から復刻する際に、土取さんからの紹介で出会ったのが写真家の渡辺眸さんです。縄文鼓プロジェクトを長期に亙って取材した写真(殆どが未発表)をお宅で見せていただき、その内の数枚を復刻版CD解説書に掲載させていただきました。縄文鼓(じょうもんこ)に関しては、立光学舎(りゅうこうがくしゃ)が動画サイトに正式アップしたものがあるのでご紹介します。

http://youtube.com/watch?v=ma4S9uXEEZs

渡辺眸さんがこれまで発表した写真集は、時空を超越して永続する命の震動が静かに語りかけてくる素晴らしい内容のものばかりです。眸さんの写真を見ることは、here(ここ/このまま) と there(そこ/そのまま) が交替する場所に立ち会う稀有な体験だと言ってもよいのではないかと思います。

 

1970年代は多くの時をインド、ネパールで暮らし、原初の人間存在を透視するかのような場景を『天竺』、『西方神話』といった写真集に結実させています。CD-Rom版の写真集『西方神話』(書籍の写真集とは根本的に異なる編集方針と内容)も発売されていますが(Windows / Mac対応)、Windows XP以降で見る場合は、仮想メモリの初期サイズを実装メモリより小さい値に設定しないとソフトが起動しませんのでご注意を。そして、猿に注目したシリーズとしては『猿年紀』、『てつがくのさる』。近年は幻想的な美しさと畏れと祈りを静かに湛えた蓮のシリーズも手掛けています()。昨年(2009年)、八ヶ岳山麓小淵沢雄大な自然に囲まれたフィリア美術館で開催された「渡辺眸 写真展 旅の扉 」は、眸さんのこれまでの活動を回顧する充実した内容の展覧会でした。

前述した写真集のほとんどが残念なことに現在入手困難です。『猿年紀』だけ、どうしても見つからなかったのですが、この間古書店でようやく出会うことができました。

 

『猿年紀』の写真を眺めていると時間があっと言う間に過ぎていきます。猿たちが何かをじっと見つめ、瞑想し、本能に導かれて行為する姿の中に人間の本質が鮮烈に浮かび上がり、つまり「猿が人に見えてくる」――最初の衝撃はそのようにあって、しかし、なおもそのまま見ていると、今度は、猿がいわゆる「猿」というありきたりのイメージの動物ではなくなって、まさにそこに実存する一個の生命であることが深く心に染みて語りかけてきます。つまり、「わたしが猿になっていく」という衝撃。すると今度は、この写真家はいったいこれらの写真をどのようにして撮影することができたのかということに思い至って、改めて言葉を失います。これが三度目の衝撃。つまり、渡辺眸さんの目は、もはや人間ではなくすでに「猿の目」になっている。

眸さんは、これら猿のシリーズについて以前写真評論家の倉石信乃さんが述べた評言が強く印象に残っていると言っていましたが、肝心のその批評がどのような言葉だったのか聞き忘れました。今度眸さんにお会いしたら、確かめてみようと思います。

最後にお知らせです。来週11月27日(土)、西荻窪のほびっと村の連続講座「やさしいかくめい〜リアル・ダイアローグ」の第3回目のゲストとして渡辺眸さんが登場します――「全共闘、インド・ネパール、蓮の花」。会場:ほびっと村、時間:午後1:30〜5:00、料金:3,000円。要予約とのことなので、以下のリンクページ先で詳細をご覧ください。

(堀内)