じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

初幟 能の太鼓の家はここ(虚子)


Photo by (c)Tomo.Yun http://www.yunphoto.net
まもなく端午の節句
東京では最近ほとんど見かけなくなってしまったけれど、鯉のぼりが空に泳ぐ姿には、晴れ晴れとした気分とともに、何か勇気づけられるような思いがする。
上掲の句、初幟(はつのぼり)とは、その家に男の子の赤ん坊が生まれた時、はじめての五月の節句にあげるのぼり旗、鯉のぼり。両親の実家がお祝いに贈ることが多く、初幟は新品そのもの。空に泳げば、さぞかし勢いもよいことであろう。
実はこの句、以前、金春流の太鼓、二十二代宗家・金春惣右衛門先生から教えていただいた。作者は高浜虚子。昔、金春先生が「虚子先生、このたびウチに長男が生まれました」とご報告にあがると、ただちにこの句を書いて贈って下さったそうだ。だから、この句は長男の國和さんが初節句の時のお祝い句である。
「おや、鯉のぼりがあがったね。金春先生の家には男の子が生まれたんだね」などと、通りすがりの人々が会話したかもしれない。あるいは、地図だけを頼りに金春先生のお宅を尋ねて来たら、何のことはない、遠くからよく見えていたあの鯉のぼりの上がっているお宅だった、などということもあったかもしれない。のどかな田畑が広っていたであろう時代、鯉のぼりは良き目印であっただろう。そしていつの時代にも、希望の印であり続けている。
金春惣右衛門先生は金春流二十二代宗家であり、人間国宝であり、能楽界の重鎮である。以前インタビューに同席させていただいていた折、一体何をお話ししてよいのやら・・・・と、どぎまぎしていたところ、先生は話しがお上手で、切実な話題でもなぜか飄々と語られるものだから、ついつい引き込まれてその先が聞きたくなってしまう、そんな人間的魅力をお持ちの方である。
金春先生がご監修下さった数々の作品が、当財団でCD化されている。以下にその作品群を紹介しておきたいと思う。


『「砧」「羽衣」 観世寿夫 至花の二曲(2枚組)』


『観世流 舞の囃子 一噌流・幸流・高安流・金春流による(4枚組)』


『能楽囃子体系 (8枚組)』

これは昭和48年度芸術祭大賞受賞作品『能楽囃子体系』(LP6枚組)と『補遺篇』(LP2枚組)をCD7枚で完全復刻した上に、特典盤CD1枚が付いている。

この特典盤には、制作当時の監修者である金春惣右衛門先生、増田正造先生、制作プロデューサーの波多一索先生というお三人の鼎談と、名人たちの至芸を一部SPメタル原盤から起こした音源で抄録している(全58分45秒)。制作当時の時代背景やご苦労された話、野口兼資、櫻間弓川、幸祥光などSP盤に記録を残された名人たちとの思い出のなども語られていて、楽しめる内容である。

(やちゃ坊)