じゃぽブログ

公益財団法人日本伝統文化振興財団のスタッフが綴る、旬な話題、出来事、気になるあれこれ。

一中節「安宅勧進帳」

やさしい解説と名演奏による「古曲を知る」シリーズが、年間をとおして「古曲会」の主催で開かれています。今月は「一中節を知る会」がありました(2012年8月3日、紀尾井小ホール)。

古曲とは、一中節のほかに荻江(おぎえ)節、河東(かとう)節、宮薗(みやぞの)節の4つのジャンルを指します。
一中節はおそらく17世紀の後半に京都で始められた三味線音楽ですが、その起源ははっきりしないそうです。やがて江戸に移され、上方では絶えてしまいます。初期には歌舞伎の所作事として人気が高かったものの、主に座敷浄瑠璃として喜ばれたようで、やがて歌舞伎との縁はなくなり、愛好者の間で伝承されてきました。そのために、江戸時代の姿そのままに今に伝えられています。
一中節から、常磐津、富本、清元、宮薗、新内など各種の浄瑠璃が派生したという意味でも興味深い音楽です。

プログラムは次の3曲。一中節の3つの流派、菅野派、宇治派、都派の方々がそれぞれ演奏しました。

「道行三度笠」
浄瑠璃:菅野序恵美
三味線:菅野序枝

「邯鄲」(下)
浄瑠璃:宇治紫文、宇治文寿
三味線:宇治紫津、宇治紫卯

「安宅勧進帳
浄瑠璃:都乙中、都鳳中、都了中
三味線:都一中、都楽中、都勝中

この日は日中30度を超える日で、暑いさなかの午後2時開演にもかかわらず、盛会でした。「安宅勧進帳」を目当てにいらした方も多かったようです。
解説された竹内道敬先生によれば、「一中節の『安宅勧進帳』を聴いた人から、長唄の『勧進帳』と似てますね、と言われることがありますが、こちらのほうが先なのです」とのこと。
長唄勧進帳」を作曲するにあたり、この「安宅勧進帳」が参考にされたのだそうです。その後長唄のほうがあまりに有名になったため、一中節では演奏の機会が少なくなってしまいました。 
初めて聴いた一中節「安宅勧進帳」は、長唄とお話はいっしょなのですが、節回しがだいぶ違います。浄瑠璃を担当した都乙中というのはじつは清元志佐雄太夫さん、都鳳中は長唄の杵屋巳紗鳳さんのことで、たっぷりと聴かせました。

(Y)